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聖光学院高校野球部はいまも練習中。
斎藤智也監督が語る「自粛」の形。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2020/04/02 19:00
練習を指揮する斎藤智也監督。信念の人である。
「寮を解散しないほうが賢明ですよ」
「寮を解散しないほうが賢明ですよ」
そう提案したのは、部長の横山博英だった。
政府から全国小中高の一斉休校要請があった2月下旬、福島県ではウイルス感染者は確認されていなかった。一方で、関東や関西などの都市部では感染拡大の懸念が漂っていた。
聖光学院では、寮生の実家の多くがそのエリアに該当するため、横山は「今、生徒を帰省させるのは、むしろ逆効果だ」と判断。斎藤や他のコーチ陣も異論はなかった。
寮にさえいれば、舎監を務める石田安広コーチの目が行き届く。実家通いの選手も含め、「不要不急の外出を控える」「公共交通機関の利用は禁止」「家族、野球部以外の人間との接触は極力避ける」と決め、行動範囲を寮または自宅とグラウンドのみとする。
斎藤が決断の意義を語る。
「公立だったり、今も練習を自粛している高校があるなかで、あんまり勝ち誇ったことは言いたくないんだけど、『感染者が確認されていない福島県ならば、生徒たちの面倒を見られると判断した』ってことになるね。
今回のコロナウイルス問題に関して最優先すべきは、子供たちを守ること。学校も休校、野球部も活動自粛。そこで、『家から出ないように』って言っても、離れているうちらが目を光らせるにも限界があるじゃない。もし、ちょっとした人混みの場所に行って感染でもしたら、それこそ休校、活動自粛した意味がないよね。
聖光学院として、できるだけ前向きに活動できる方策を考えた結果、寮を解散しない。部員全員でグラウンドに出てくることが『生徒たちを守ることになる』って判断した。いろんなご意見はあるだろうけど、これがうちにとってベストな答えだと思っている」
周囲の目、選手たちの不安。
聖光学院とは、その時々で自分たちが置かれている立場を見極め、「何と戦うべきなのか?」を足元から見つめ直せるチームだ。
大きな敵はウイルス以外にも潜んでいる。
どれだけ深い意図や狙いがあったとしても、「楽観」と受け取る周囲の目。「本当に野球ができるのか?」と、日に日に増していく選手たちの不安や焦燥……。派生した敵のほうが、次第に強大になっていく。
未曽有の大震災、そして原発事故による風評被害と真正面から向き合った経験を持つ聖光学院だからこそ、ナンセンスだと理解しつつも確認しておきたかった。