野球クロスロードBACK NUMBER
聖光学院高校野球部はいまも練習中。
斎藤智也監督が語る「自粛」の形。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2020/04/02 19:00
練習を指揮する斎藤智也監督。信念の人である。
春季大会は無観客開催の方向。
これらの「宿題」に加えて提出させている「野球ノート」にも、変化が現れるようになった。<練習ではできていても、紅白戦で打席に立つと、まだメンタルをコントロールできない自分がいます>といったように、自分を客観視できる選手が増えてきたという。
「あとは、それをどこまで形にできるかだな。言葉で表現する以上に難しいから」
不満げに注文をつけながらも、斎藤の表情は明るい。チームは着実に歩を前に進めているのだと、実感しているのだろう。
新型コロナウイルスの猛威は、いまだ収束の気配がない。福島県の高校野球で言えば、春季大会は規模を縮小し、無観客開催の方向で準備が進められるそうだ。余波は続く。
事実は言わずとも、選手には伝わる。
「秋に惨敗して、夏に這い上がることだけを夢見ているチームだから」と、大会に向けての心構えなどについて、斎藤はあえて、選手の前で多くを語らない。
2011年の震災で選手たちが貫いた「無言のメッセージ」。それを今、斎藤自身が体現しているのである。
今も生きる「下剋上」の精神。
最終的な目的はひとつ。部員全員が足並みを揃え、向かうべき場所に進めばいいのだ。
「夏に『下剋上』を果たすために、とにかく必死なんだ、生徒らは」
この言葉に、聖光学院の原点回帰を見た。
甲子園初出場を遂げた2001年、初戦で0-20と歴史的大敗を喫してから、リベンジを誓うべく掲げた志こそが、「下剋上」だった。
今年は、戦前を含めても最多タイとなる14年連続を懸けた戦いとなる。しかし、前後裁断のごとく、彼らは「今」だけを見る。本当の意味での挑戦者に立ち返ろうとしている。
聖光学院は克己する。欲望に克ち、風評にも克つ。その先に「勝」が待っている。