甲子園の風BACK NUMBER
センバツに懸けていた智弁和歌山。
「悲劇のヒーロー」にはならない。
posted2020/04/01 11:50
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
Noriko Yonemushi
約2カ月前の1月24日、センバツ出場校の発表を前に、智弁和歌山高校の選手たちは練習を一時中断してベンチ前に集まり、顔を寄せ合って、中谷仁監督のスマートフォンから聞こえてくる声に耳をすませていた。
近畿地区の6番目に「智弁和歌山」と呼ばれた瞬間、「ウォー!」と24人が弾けるように跳び上がった。6季連続での甲子園出場が決まった。
昨秋は和歌山大会で優勝し、近畿大会に臨んだが、準々決勝で奈良代表の智弁学園に13-17で敗れていた。近畿の枠は6校で、近畿大会ベスト4の4校は当確。
残りの2校は、準々決勝のうち2試合がコールドゲームだったことなどを踏まえると、準々決勝で接戦の末に敗れた明石商と智弁和歌山が有力視されていたが、当事者たちは発表があるまで気が気でなかった。
智弁和歌山主将の細川凌平は、心底安堵した表情でこう言った。
「不安な気持ちが大きかったんですけど、選ばれてほっとしています。自分は次の春が4回目の甲子園なので、経験してきた分、みんなに伝えて、負けないチームを作っていきたい。必ず、先輩たちが達成できなかった日本一というものを、達成します」
前任者・黒川史陽とは違う主将に。
前主将の黒川史陽(楽天)から引き継いだものは? と聞かれると、こう答えた。
「今の自分はまだまだ超えられてもいないですし、頼りないキャプテンだと思うんですけど、黒川さんになるんではなくて、自分は黒川さんとは違う部分を持っていると思うので、自分の特徴を活かして、やりたいようにやることが大事なのかなと思います。黒川さんにも、『チーム黒川から、チーム細川に変えていけ』と言われたので」
黒川は、「日本一になる」という強い信念のもと、強烈なリーダーシップでチームを牽引した。
昨夏の甲子園の後、新チームの主将になった細川は、黒川の主将像を追っていた。しかし思うようにチームをまとめられない。そんな時、黒川にこう言われた。
「オレは1人で怒って、1人でイライラして、というのがあったけど、お前はもっとみんなにいい伝え方ができる。お前はチームメイトと会話できるから、寄り添って話して、そういうのを自分の色として出していったらいいんちゃうか」
その言葉で細川は楽になった。
「黒川さんみたいにチームを鼓舞して、1人でやろうとしていた。厳しいことをみんなに言わなくちゃいけないと、黒川さんのキャプテン像を描きすぎていました。でも黒川さんにそういう言葉をもらって、僕は僕の伝え方だったり、会話をして、寄り添うことを大事にやっていこうと思いました」と振り返る。