野球クロスロードBACK NUMBER
聖光学院高校野球部はいまも練習中。
斎藤智也監督が語る「自粛」の形。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2020/04/02 19:00
練習を指揮する斎藤智也監督。信念の人である。
どこまでも謙虚で潔いチームだった。
当時の斎藤は、それを「無言のメッセージ」と表現した。
監督が言う「行動」とは野球だ。行いが必ずグラウンドでの振る舞いに現れる――そう説き続けた。歳内をはじめとする選手たちは「震災を背負えるわけではないけど、できることをやる」と誓う。猛暑の香りが漂い始めた6月に入っても、テスト前の勉強会などで「体育館で避難生活をしている人たちは暑さと戦っている」と、エアコンを入れずに生活した。見えない場所でも、彼らは行動で示そうとした。
積み重ねが結実したのは、夏の福島県大会決勝だった。
「限りなく震災を背負えたと思う」
斎藤がそう目尻を下げたのは、優勝を決めた瞬間だった。
感情を爆発させる選手は誰ひとりとしていない。まるで初戦の勝利を見ているかのように軽くハイタッチを交わす程度で、すぐに試合後の整列のためホームベースに集まった。
「いい光景だった。あれは被災者に対しての最高の気遣いだったよね。すごく嬉しい瞬間だった。『こいつら、わかってる。最高のメッセージだ。これで、本気で日本一の旗を獲りに行く準備が整ったぞ!』って」
甲子園では2回戦で敗退し、全国制覇は叶わなかった。だが斎藤は、「どこまでも謙虚で潔い、いい男たちに成長してくれた」と、今でもチームの歩みを称えている。
高校野球はいち部活動だけど。
あの年。聖光学院は確かに全国へメッセージを届けた。現在の斎藤は、それを「野球が持つ力」と形容する。
「高校野球なんて、いち部活動でしかないのかもしれないけど、長い歴史のなかで人々の心を揺さぶってきたスポーツでもあるわけで。それくらい崇拝的な感覚も、俺のなかには存在してんの。
だからこそ野球っていうのは風評だったり、世間の目っていうのが一層、厳しくなるし、強いメッセージだって発信できると思うんだ。震災の年なんか、まさにそうだったよね」
だから――そう前置きして斎藤は時間軸を2020年に戻し、他者と自分たちの置かれている状況を冷静に俯瞰する。
「今回のコロナウイルス問題に関して言えば、うちは被害者意識が薄いんだ。本来なら出るはずのセンバツに出られなかった32校の指導者、選手、保護者、OBとか、関係者のことを思えばこそ、軽はずみなことなんて言えないよね。 ましてや、『夏の大会もやれるかどうか?』なんて、生徒らに失望感を与えるような、なんのプラスにもならないようなことは言いたくない。これ以上ない悲劇を味わった、センバツ出場校のみなさんに対しても失礼に値するからね」