野球クロスロードBACK NUMBER
聖光学院高校野球部はいまも練習中。
斎藤智也監督が語る「自粛」の形。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2020/04/02 19:00
練習を指揮する斎藤智也監督。信念の人である。
センバツ出場予定だった磐城への敬意。
現在の聖光学院の活動が「自粛」に値するかどうかは、おそらく賛否が分かれるだろう。
しかし、彼らはセンバツ出場校に敬意を払っている。なかでも、同じ福島県の高校で、21世紀枠で46年ぶりの春の代表に選ばれた磐城の存在は、今のチームにとってカンフル剤になっているという。
昨秋、県大会初戦でコールド負けを喫した聖光学院に対し、磐城は東北大会ベスト8まで勝ち上がり、センバツ出場を手繰り寄せた。何より県内随一の進学校で、文武両道を地で行く彼らを、斎藤はリスペクトしている。
「いい大学に入るために勉強を頑張って、野球の練習にも精を出して両立させているのが磐城高校。自意識過剰で、甲子園に行くために野球をしているのが今の聖光学院。秋の結果を見れば、どっちが評価されるか一目瞭然だよね。
センバツを奪われた磐城高校の想いを少しでも理解できるんだったら、今までの自分たちの常識を反省して、行いを顧みることも大事なんじゃないかって。足元にも及ばないかもしれないけど、磐城高校の生徒たちの努力に少しでも近づくことが、彼らに敬意を払うことにも繋がるんじゃないかって」
勝つための鍛錬、だけではない勉強。
その取り組みの一環として、斎藤は選手たちに「宿題」を与えている。それは、彼らに考える能力を養わせるためでもある。
例えば、漢字の解釈。
「聞く」と「聴く」の違い。斎藤は「多少、強引かもしれないけど『耳と十の目と心で聞かないといけない』から『聴く』と書くんじゃないか?」と選手に伝える。
求めるのは、正解ではなく解釈の多様性だ。漢字や四字熟語、歴史的な出来事など、個々でどう捉えるか? その感性こそ、やがて人間性や野球にも結びついてくる。斎藤はその足掛かりになるよう仕向けている。
「今までうちがミーティングで説いてきた人間学。『根性を出せ、魂を込めろ、心を鍛えろ!』とか、試合に勝つための精神的な鍛練も美しいことだと思うんだけど、果たして、それだけで人間として成長できるのか? と考えた時に、一旦それを脇に置こうと思ったわけ。
基礎的な勉強かもしれないけど、日本人として言葉の成り立ちや歴史の重みを感じさせることも、今の生徒らには必要なんだ。だから、ミーティングなんかで宿題の話を膨らませたりすると、頷くんだよ。覚えさせる勉強じゃない、点数を取るための機械的な作業じゃないから、面白いんだろうね」