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大迫傑は「感覚を信じない」。
ランニングと科学の混沌とした未来。
posted2020/03/25 19:00
text by
涌井健策(Number編集部)Kensaku Wakui
photograph by
Shota Matsumoto
「『走りの感覚』ってよく言いますが、僕はランニングにおいて感覚はそんなに重要じゃないと思うんです」
この衝撃的な発言の主は、大迫傑だ。発売中のNumberDo「ランニングを科学する」のために、東京マラソンで自身の持つ日本記録を更新した大迫にインタビュー時間をもらった。
自分の頭で考えられた言葉で、世間におもねることなく、率直に話をしてくれる大迫の話を聞くのは編集者として毎回大きな楽しみである。だからこそ、ある程度は他のランナー、アスリートと違う意見に接することも予想をしているのだが、個人的にこの言葉には「えっ」と声が出るほど驚いてしまった。
「感覚はそんなに重要じゃない」
これはシューズに関する話を聞いていたなかで飛び出した言葉だ。
五輪代表の座がかかった重要なレースで、大迫は、手元に届いて2、3週間しか時間がなく、まだ履き慣れていないナイキの新作厚底シューズ「アルファフライ」を履いた。その理由をこちらが問うと、こんな答えが返ってきたのだ。
市民ランナーでも、ランニングシューズが自分にあっているか、あっていないかを感覚的に判断する。サイズ、重さ、クッショニング、フィット感、接地感。様々な角度から自分の感覚を頼りに、シューズを選んでいる。
エリートランナーや箱根駅伝を走る選手たちからも同じような言葉を聞いてきており、繊細な感覚を持つトップ選手ほどシューズに対する感覚も鋭敏なのではないかと“思い込んで”いた。
でも、大迫は違った。感覚に対する驚くような発言は続いた。
「靴に“慣れる”必要も僕はないと思っています」
曰く、自らの体の感覚に頼りすぎることは自身の成長を妨げる。曰く、シューズを開発したナイキのテクノロジーと「アルファフライで速くなる」という科学的な検証結果を信じている。
自分の感覚が、成長を妨げる。
ランニングだけでなく、スポーツを経験したことのある人であれば、自分の中でうまくいったときの経験を思い出そうとしたことがあるだろう。
ただ、大迫はランニングはシンプルな競技だからこそ、感覚に頼りすぎてはいけないと語る。自己ベストが出た時のランニングフォーム、ストライドの大きさや腕振りの感覚。その当時の「よかった感覚」に固執することこそが、自身のアスリートとしての成長を妨げるというのだ。
次の言葉に、大迫傑というランナーの、トレーニングそのもの、そして成長という概念をどうとらえているかが滲んでいるだろう。
「結局、人間の感覚なんて主観的であてにならないもの。それよりも僕は科学的で客観的な数値を重視しています」