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大迫傑は「感覚を信じない」。
ランニングと科学の混沌とした未来。 

text by

涌井健策(Number編集部)

涌井健策(Number編集部)Kensaku Wakui

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photograph byShota Matsumoto

posted2020/03/25 19:00

大迫傑は「感覚を信じない」。ランニングと科学の混沌とした未来。<Number Web> photograph by Shota Matsumoto

五輪は延期になっても、大迫は日々トレーニングを続けている。

「走る」はまだ科学の手に余る。

 そして大迫の言葉は、「ランニング」と「科学」の関係性を考える上でも、とても示唆に富んでいる。

 今回の特集「ランニングを科学する」では様々な観点から記事をつくった。

 トレーニングの効果や疲労を数値化することはできるのか。走っているときの脳の状態はどんなものか。何歳まで自己ベストは更新できるのか。食事を変えることで持久力は向上するのか。レースの面白さとは何なのか。ランニングウォッチの未来とは。

 詳しい結果については各記事を読んでほしいが、担当デスクとして特集1冊を作ってみた感想は以下のようなものだ(凡庸になってしまうけれど)。

 科学のランニングへのアプローチは進歩しつつ、多様になっており、ランナーが手軽に利用できるようになりつつある。それでも、「ランニング」の全貌を科学がとらえるのは遥か先の未来のこと――。

 そう、「走る」というシンプルな行為は、とてつもなく奥が深く、科学でその断片を説明することはできても(特集では各断片に可能な限り迫ってみたつもりです)、その全体像を描き出すのは難しいのだ。

大迫は感覚と数値を自在に操る。

 特集に協力をいただき、自らもサブ3ランナーでもある筑波大学の鍋倉賢治教授は、チームスポーツではなく、シンプルな動きの繰り返しであるランニングを「ほかの競技と比較すれば科学的に分析しやすい」としたうえで、「まだまだわからないことだらけ」と言っていた。

 乳酸研究の世界的権威である東京大学の八田秀雄教授は「筋肉痛のメカニズムさえわかっていない」と苦笑しつつも、これからの研究に期待を寄せていた。

 トップアスリートはもちろん、市民ランナーを含めた人々の身体的な経験がデータとして積み重なり、それがシューズメーカーや研究者にフィードバックされ、科学的に検証をされていけば、ランニングの全体像はよりクリアになっていくだろう。

 そのプロセスを今後も見守っていきたいし、それは面白い仕事になっていくだろう。だが、その全体像がこの10年、20年という単位の時間で完全にクリアになることはないと思われる。その時に頼りにしたいのが、大迫のような最先端を走るランナーの言葉だ。

 身体の感覚と、テクノロジーの数値。それを自在に操れるものこそが、未来の景色をいち早く目にすることができるのだ。

「感覚はそんなに重要じゃない」

 こんな言葉をこれからも誌面で伝え続けたい。

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