ツバメの観察日記BACK NUMBER
ヤクルト奥川恭伸はなぜこの本を?
『座右の書「貞観政要」』を読む。
text by
長谷川晶一Shoichi Hasegawa
photograph byKYODO
posted2020/03/09 11:00
キャンプで投げ込むヤクルト・奥川。昨季、防御率4.78とセ・リーグで大差をつけられての最下位だった投手陣の救世主になれるか。
野村克也氏が常々口にしていたフレーズ。
本来ならば触手がのびないはずの一冊だった。しかし、「奥川君はどうしてこの本を手にしていたのだろう?」という好奇心が芽生え、気がつけば本を手に取り、むさぼるように読んでいた。
あっという間に読破し、改めて思う。
――奥川君は、この本をどのように読み、何を感じたのだろう?
本書は第1章には「リーダーは『器』を大きくしようとせずに、中身を捨てなさい」とあり、続く第2章は「『部下の小言を聞き続ける』という能力」とある。
いずれも、「リーダーの心得」を説いたものだった。印象的だったのは「組織はリーダーの器以上のことは何一つできない」(P66)とか、「何もしなくても組織が成り立つのは、適材適所に人を配置できている証拠」(P83)などのお言葉。これは、まさに野村克也氏が常々口にしていたフレーズではないか!
(奥川君ではなく、本書はむしろ高津臣吾監督が読むべき本なのでは……)
そんな思いを抱きつつ、さらに読み進める。
「凡事徹底」の教えと通底している。
すると、第3章の「『いい決断』ができる人は、頭の中に『時間軸』がある」辺りから、少しずつ奥川君に役立ちそうな内容に移っていった。
たとえば、「あらゆる『大事』は、『小事』から起こる」などは、ノムさんが何度も繰り返し、昨年までヘッドコーチを務めていた宮本慎也氏が口を酸っぱく言っていた「凡事徹底」の教えと通底している。
あるいは、正しい決断を迅速に行うためには「タテヨコ思考」が大切だという教えは、ぜひ奥川君にも身につけてもらいたい。
つまり、何かを決断する際に「タテ軸は、先人の話を聞くことであり、本を読むことです。ヨコ軸は、自らの足で世界を歩き、見聞を広めることです」というもの。頭でっかちにならずに、自らの行動、体験を通じて正しい決断を下すこと。
これからプロの道を歩み始める奥川君にピッタリの教えだ。