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神戸の天皇杯優勝は巨大エポックだ。
遂に見つけた理想と現実の合流地点。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byJFA/AFLO
posted2020/01/06 11:45
巨大補強がなかなか実らなかった神戸だが、ついにタイトルに届いた。この成功体験が、クラブにとって大きな自信になるはずだ。
リーグ戦の最終盤に、初めての3連勝。
6月には吉田監督が退任し、トルステン・フィンクがチームの先頭に立った。7月には出場機会の減っていたキム・スンギュがチームを去り、横浜F・マリノスから飯倉大樹を獲得する。
さらにバルセロナでプレーしていたベルギー代表DFトーマス・フェルマーレンも加え、8月にはドイツ・ブンデスリーガで長くプレーした元日本代表の酒井高徳もチームの一員となった。昇格1年目の大分トリニータで8ゴールを奪っていたストライカーの藤本憲明も、8月にクリムゾンレッドのユニフォームを着ることとなった。
夏の移籍マーケットで即戦力を加えたものの、揺れ幅の大きな戦いぶりはすぐには改善されない。サガン鳥栖から大量6ゴールを奪って大勝したかと思えば、広島に6失点を食らってしまう。無得点試合は少ないものの、無失点試合がそれ以上に少ない。攻守が一体化したサッカーは、なかなか展開できなかった。
変化の萌しが見えたのは、リーグ戦の最終盤である。32節のC大阪戦から、3連勝を飾ったのだ。白星が3つ並んだのは、今シーズン初めてのことだった。得点は多いが失点も多かったチームに、「安定感」という表現が近づいてきた。
そうやって迎えたのが、'20年元日の天皇杯決勝だった。
鹿島よりも明確に状態は上。
J1リーグ終了から3週間強の空白期間があったものの、12月21日の準決勝で清水エスパルスに3-1で快勝していた。シーズン終盤に勝ちきれない試合が続き、準決勝でもJ2のV・ファーレン長崎に苦しめられた鹿島アントラーズとは、国立競技場へ辿り着くまでの足跡に開きがあったと言っていい。
果たして、5万8000人に迫る大観衆のまえで、ヴィッセルは序盤からゲームを支配する。イニエスタのタテパス、古橋亨梧の突破力、ポドルスキのパワフルな左足といったものが相手守備陣への圧力となり、3-4-2-1のシステムで右アウトサイドの西、左アウトサイドの酒井が攻撃に絡んでいく。
3バック中央の大﨑玲央の持ち上がりも効果的だった。CBの攻撃参加が鹿島の守備を混乱させるのは、準決勝をみれば明らかだった。28分にオフサイドで取り消されたポドルスキのゴールも、大﨑が中央からボールを運んでいったことがきっかけとなっている。