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引退・明神智和の魂は今もガンバに。
遠藤保仁、山口智、藤春廣輝の秘話。
text by
下薗昌記Masaki Shimozono
photograph byGetty Images
posted2019/12/06 11:50
明神智和(右端)と遠藤保仁。ガンバ大阪の魅力的な攻撃スタイルのど真ん中には常にこの2人がいた。
「最後まで戦え、頑張れ」
「明さんから多くを学んだし、頼れる先輩だった」と話す藤春には忘れられない一戦がある。
大卒ルーキーだった藤春は、2011年8月のヴィッセル神戸戦でリーグ戦2度目の先発に名を連ねていた。
3カ月前の5月にはアウェイのアビスパ福岡戦でリーグ戦デビュー。しかし惨憺たるパフォーマンスで、ハーフタイムには交代を命じられ、その後は途中出場さえ果たせず、プロの壁にぶつかっていたのだ。
そんなルーキーが3カ月ぶりにピッチに立ったアウェイでの一戦で、ガンバ大阪は4-0で快勝した。
試合終盤、足がつり疲弊しきっていたルーキーに明神は「最後まで戦え」「最後まで頑張れ」と声をかけ続けたという。
「あの人は日頃はあまり語らないけど、その言葉に救われたのを今でも、覚えている。『やってやろう』って気持ちになりましたから」
藤春も「明さん」のように走る。
男は背中で語る、を地で行く鉄人ボランチのような器用さはないが、藤春もまた、その走力と献身性でチームを支えてきた。
時に全身が痙攣するほどの疲労を感じながらも、試合の終盤に前線に顔を出したり、危険地帯で体を張ったりとタフに走りきるのが藤春のスタイルだ。
「僕がガンバに入った時から最後まで走りきれる明さんを後ろから見ていて凄いと思ったし、その影響を受けている。だからこそ、今も僕は最後まで走り切ろうと思っている。僕もあまり言葉で語ったりしないけど若い選手にも走り負けたくないし。何かを感じ取ってもらえれば嬉しい」
24年間、ピアノを運び続けてきた「明さん」がついに、スパイクを脱ぐ。
さらば、鉄人、第二の人生に幸あらんことを――。