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浦和在籍5年半でJ公式戦出場ゼロも、
ファンと同僚に愛されたGK岩舘直。
posted2019/12/05 11:30
text by
佐藤亮太Ryota Sato
photograph by
J.LEAGUE
12月1日、浦和の練習場である大原サッカー場には約150人のファン・サポーターが訪れた。約1時間半の練習を終えて選手がクラブハウスに引き上げるなか、練習場を去らない選手がいた。
岩舘直というゴールキーパーである。
サインや写真撮影に応じたり、長い間、立ち話ししたり、なかには泣き出す女性も――彼のファンサービスが終わった頃には13時をとうに過ぎていた。
練習を終えたのは11時半ごろ。つまり、1時間半もその場でファンと触れ合い続けた。
両手いっぱいのプレゼントを抱えていた岩舘。先月28日、クラブから今季限りの退団が発表されていた。そのニュースを知ったファン・サポーターが別れを惜しみに来たのだ。
水戸・浦和でJ公式戦出場なしも。
岩舘ほど、Jリーグで特異な経歴の持ち主はいない。
2007年にJFLアルテ高崎に加入後、創造学園大学を経て'10年に再入団。'12年から2年半、水戸ホーリーホックに在籍。’14年6月、期限付き移籍で浦和に加入(’16年に完全移籍)。そんな岩舘はアルテ高崎時代に天皇杯4試合に出場したものの、水戸、浦和とJでの公式戦出場はない。にもかかわらず、岩舘は浦和に5年半もの間在籍し、ファン・サポーターに愛される選手となったのだ。
人気の秘密はファンサービスの丁寧さ。その秘訣はできるだけ一言でも声をかけること。言葉にするとシンプルなことかもしれないが、本人の言葉を聞けば、その印象は少し変わると思う。
「ファンサービスで多くの人が並ぶと、どうしても“流れ作業”になってしまう。これが嫌だなと感じました。なので、できるだけ(多くの人と)関わろうとしたんです。声をかけるとこっちが覚えられて、コミュニケーションの積み重ねができる。
また次に来た時、また違う話ができますし、自分に声をかけてくれることも嬉しいですから。浦和にはスター選手がたくさんいますし、そういう自覚はあった。自分にはそうした時間が確保できるので」
いわば、チームメートのために自ら買って出ていた役割でもあった。