話が終わったらボールを蹴ろうBACK NUMBER
中村俊輔、横浜FCでの試行錯誤。
理想と現実の間で戦い続けた5カ月。
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byJ.LEAGUE
posted2019/11/27 11:50
中村俊輔は横浜FCに適応し、昇格に貢献した。この選手の底はまだ見えていない。
染みついたやり方と、監督のスタイル。
出場機会を失ったキッカケは、町田戦の前の大宮戦にあった。
この時、中村は田代真一とダブルボランチを組んでスタメン出場した。
下平隆宏監督の目指すスタイルは「繋ぎ」だが、両サイドは選手のスピードを活かして徹底して早く攻めることを意識していた。
中村は中央でゲームを作って、相手の隙をうかがって多彩なパスで決定機を作るというスタイルで長年やってきた。監督の意図していることは理解できるが、中村には染みついたやり方があるので、どうしてもプレーに出てしまう。その結果、町田戦から控えに回り、ついにベンチからも外された。
しかし中村はそこで腐らず、終わらなかった。
「ベンチ外になってキレた。で、下さん(下平監督)が求めているものと自分のもともとのトップ下の感覚を織り交ぜたら、自分の中でけっこうフィットしてきた。
練習でそういうのを下さんやスタッフが見ているんだよね。それで京都に負けたのもあって、ヴェルディ戦から自分が出させてもらった。出た時は『できる』という感覚があったし、その試合でハマってゴールを決めて、今までうまくやってこれた」
中村にとってベンチ外の2試合は、下平監督のスタイルを受け入れて自分なりにアレンジを加え、ボランチでプレーすることを納得せずとも理解するためのモラトリアムだったのだ。
大胆なメンバーチェンジが成功。
中村が出場したヴェルディ戦は、チームにとって終盤の大きなポイントになった。
前節の京都戦に0-3で敗れた下平監督は、ヴェルディ戦に中村をボランチに復帰させ、新たに佐藤謙介と組ませた。同時にイバとレアンドロ・ドミンゲスという主軸のふたりをメンバーから外したのである。
「イバとドミンゲスを外すという選択はなかなかできない。同時に謙介(佐藤)や功佑(齋藤)の調子が上がってきた。謙介はずっとベンチ外で、俺とセットだとすごく良くて、でもそういうチョイスの仕方とか、真ん中の4人をいきなり代えるというのはなかなかできることじゃない」
下平監督のアイデアが功を奏し、中村のスタイルの変化もあってチームは歯車が噛み合い、ヴェルディ戦から最終節の愛媛戦まで5連勝を飾り、J1昇格に華を添えた。