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フロンターレが得た栄冠以上の経験。
勝利への嗅覚は新たな伝統となるか。
posted2019/11/12 18:00
text by
いしかわごうGo Ishikawa
photograph by
Getty Images
実に不思議な瞬間だった。
11月9日のJ1第31節の鹿島アントラーズ対川崎フロンターレ。
0-0で迎えた62分、川崎がゴール前で得たフリーキックの場面でのことだ。守る側の鹿島からすれば、絶対に隙を見せてはいけないはずの局面である。
ところが。
キッカーの家長昭博が左足で繰り出したキックに反応していたのは、川崎の山村和也ただ1人だった。空中で競り合いに行こうとする鹿島の選手は皆無で、誰にも邪魔されることなく宙を舞った山村が完璧なタイミングで頭に合わせる。そしてGKクォン・スンテの届かない位置にボールを流し込んでゴールネットを揺らした。
「飛び道具」となった山村の強さ。
「気がついたら、フリーでした」
試合後の山村は、そう言ってはにかんでいた。もちろん、そこに偶然いたわけではない。キックのタイミングに合わせて、ファーサイドに回り込む動きでゾーンで守る鹿島守備陣の背後から侵入し、うまく落下地点に走りこんでいる。
「ヤスト(脇坂泰斗)が代わったのでアキさんがボールを蹴ることになったんですが、練習でもちょこちょこ蹴ったりはするんです。アキさんのボールというのは落ちてくるというか……合わせやすかったですね」
蹴った家長いわく「適当です」とのボールの軌道は絶妙であり、マークにつこうとしていたレオ・シルバをうまくガードして山村をフリーにさせた谷口彰悟のお膳立ても見事だった。決め切った山村のエアバトルの強さと決定力を小林悠が絶賛する。
「ああいう大きい選手がヘディングを決めてくれると助かるというか、それ以外でも守備の部分でのセットプレーでもヤマは心強いですし、本当にフロンターレにはなかった飛び道具というか……あれは本当に助かりますね」
そして、それ以上に褒められるべきなのは、勝負所を見逃さなかったチームとしての嗅覚だろう。