オリンピックPRESSBACK NUMBER
フェンシングの挑戦はまだ序章。
想像を超えた全日本選手権の光景。
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byYUTAKA/AFLO SPORT
posted2019/11/06 18:00
LINE CUBE SHIBUYAで行われた全日本選手権。選手たちのプレーはもちろん、あらゆる演出で観客を楽しませた。
会場を沸かせた「ドラクエ」。
改革と挑戦、そこに成果が伴いプラスのエネルギーが生まれれば、当然ながら「応援しよう」という支援者も増える。全日本選手権では複数企業の大会協賛に加え、それぞれの決勝ごとに異なるマッチスポンサーがつき、賞金と独自の副賞を贈呈。昨年は優勝者のみに賞金10万円と副賞が贈呈されたが、今年は準優勝、3位にも賞金と副賞が贈呈された。
そして最も会場をわかせたのが男子エペのマッチスポンサーとなったスマートフォンのゲーム「ドラゴンクエストウォーク」だ。
事前に協賛社としての発表はなく、開始前にステージへ太田会長が登場し「ワクワクドキドキする演出を共につくりあげていただいた」と発表。その言葉通り、選手入場時や試合間にはドラクエの音楽が流れ、それまではハート型で表示されていた心拍数もスライムに変化し、勝者の山田をドラクエさながらに「勇者」と称える独自の演出が展開された。
太田会長曰く「あの一発にかけた」という大胆なコラボは、これまでのスポーツ界では見た事がない光景だった。決してドラクエに詳しくなくても、バナーで流れるスライムや音楽を見るだけでワクワクして、何より、単純に面白かった。
ゲームやパブリックビューイングも。
意表をつく演出はそれだけにとどまらない。
試合間には子供も楽しめるよう、AIが音を感知し拍手や足踏みで敵と戦うフェンシングゲームも実施。さらに車いすフェンシングのデモンストレーションマッチでは太田会長自ら、中川清治選手と対戦。「フェンシングのユニフォームを着るのはきつい」と笑いながらも、国連が掲げる17から構成される持続可能な開発目標「SDGs」をフェンシング協会として推進する一策として、健常者、車いすと分けるのではなく同じ「フェンシング」として、共に盛り上げていく決意を自ら先頭に立つことで示した。
フェンシングを認知してもらうための策は会場内に限らない。
メディア露出を通し、少しでも多く取り上げられる機会を設けるために、今大会では初めてファイナル進出者の出身地や、ゆかりのある地でパブリックビューイングも敢行。「東京では10秒、15秒取り上げられるのがやっとでも、地方に目を向ければより取り上げてもらえる機会が増えるのではないかと考えた」と言う太田会長が自ら動き、映像使用は無料。まずは場を設けてほしい、と協会から頼み込む形で実現した。