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フェンシングの挑戦はまだ序章。
想像を超えた全日本選手権の光景。
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byYUTAKA/AFLO SPORT
posted2019/11/06 18:00
LINE CUBE SHIBUYAで行われた全日本選手権。選手たちのプレーはもちろん、あらゆる演出で観客を楽しませた。
攻撃型の東晟良を抑えた辻すみれ。
特に盛り上げたのが、女子フルーレで初優勝した辻すみれだ。
今年3月のワールドカップでは個人で初の銅メダルを獲得。団体戦でも4月には史上初となる世界選手権準優勝を遂げ、6月のアジア選手権では優勝。多くの選手がナショナルトレーニングセンターを拠点とする中、地元の岐阜、朝日大学で練習を重ね、男子選手とレッスンを積み、スピードある攻撃に対しての守備力を磨いた。
3連覇がかかっていたエースの東晟良(あずま・せら)と対戦した準決勝でもその成果はいかんなく発揮された。東も「(辻との対戦は)毎回どっちが勝っても15本取ったことがないぐらい、攻めてこない。(準決勝も)ちょっとは出てくると思ったけれど、本当に出てこなかった」と感服したように、攻撃型の東を徹底して抑え、6-5のロースコアを制すると、決勝では3年前の覇者で、アジア選手権団体で共に金メダルを手にした菊池小巻を15-8で退けた。
初の大舞台。しかも、これまで体感したことのない演出で行われる決勝戦。場内にLEDで表示される心拍数は200を超える場面もあり、「緊張した」と言いながらも、終始安定した試合運びは圧巻で、互いが剣を交わすラリーの攻防に会場は何度も沸いた。
「世界選手権で脚が動かなかった緊張感と違い、冷静になれるいい緊張感でした。自分のディフェンスが相手の攻撃より強いと証明したかったので、相手が打とうとしてきても体をひねらせて、有効面が相手に見えないように、気持ちよく打ち切らせないように、というのは意識していました」
男子エペは好調の山田優が優勝。
女子フルーレのみならず、江村美咲が連覇を達成した女子サーブル。ストリーツ海飛(かいと)が2年ぶりの優勝を遂げた男子サーブル。世界選手権出場メンバーを破り、JOCエリートアカデミーで中学生の頃から鍛錬を重ねた安部慶輝と永野雄大が対峙し、永野が同門対決を制した男子フルーレ。そして男子エペでは「競技を始めた頃から憧れだった」という世界ランク1位の見延和靖を、アジア選手権でも優勝した今季絶好調の山田優が破った。
全日本選手権に代表される「改革」のもと、注目度も高まれば、当然選手たちの意識も士気も上がる。その成果を発揮するかのごとく、世界を舞台に華々しい戦績を残す選手たちが全日本選手権でも白熱した攻防を展開して見せた。