スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
コールの下降とソトの大爆発。
「神話」が崩れたワールドシリーズ。
posted2019/10/26 08:00
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph by
Getty Images
ワールドシリーズの開幕戦(アメリカ時間10月22日)が、意外な結果になった。アストロズが満を持して送り出したエースのゲリット・コールが、ナショナルズの新星ホアン・ソトに2度も痛打を浴び、初戦を失ったのだ。
開幕前、ナショナルズが敵地で先勝するのは至難の業と思われていた。もし勝てるとしたら、第2戦ではないか。アストロズ二枚看板のひとり、ジャスティン・ヴァーランダーの調子が下降気味だし、なぜか彼がワールドシリーズに弱いだけに、付け入るとしたらこちらだろう。しかし、コールの牙城を崩すのはむずかしい……という予想がもっぱらだった。私もそう思っていた。
負け惜しみをいうようだが、アストロズ敗戦のうっすらとした予兆がなかったわけではない。約1週間前の10月15日、ALCS(ア・リーグ優勝決定シリーズ)第3戦で、コールはヤンキースを7回無失点に抑え込んだ。結果だけを見れば、コールの鉄腕はまだまだ無敵と思われたのだが、内容に疑問が残った。
ヤンキース戦で翳りを見えたコール。
ALDS(ア・リーグ地区シリーズ)のコールは、第2戦と第5戦に先発した。2試合合計で15回3分の2を投げて、自責点が1、奪三振が25。圧倒的なパワーでレイズ打線をねじ伏せ、レギュラーシーズンの5月27日から続けてきた連勝記録を18に伸ばした。
その記録は、ヤンキース戦でさらに伸び、19連勝に達した。1912年に、ニューヨーク・ジャイアンツのルーブ・マーカードが達成して以来の大記録だ。
別の数字に置き換えると、142日間で25試合に先発し、169回3分の1を投げて19勝0敗。シーズン序盤(3月29日~5月22日)の不調(4勝5敗、防御率4.11)が嘘のような快投だ。フライボール革命のただなかにあって、「コールは難攻不落」という評価は、球界にみるみる広がっていった(客観的に見ると、年間被本塁打29という数字はあまり芳しくないのだが、ソロ本塁打を浴びるケースが多く、失点は少なかった)。野球のインフレ化にくさびを打ち込んだその功績は大きい。
ただ、ALCSのヤンキース戦で翳りが見えたことも事実だ。この試合のコールは、7回を0点に抑えたものの、4安打5四球を許している。奪三振も7個にとどまり、連続2ケタ奪三振の記録は11試合でストップした。深いカウントまで打者に粘られるケースが多ければ、必然的に球数も増える。つまり、いつもの剛腕ではなかったのだが、結果を見るかぎり、「コール神話」は健在だった。