セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
脅迫、暴行、報復上等の半グレ集団。
ウルトラスの実態を潜入記者が語る。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byUniphoto Press
posted2019/10/02 19:00
セリエAなどのゴール裏のサポーターには危険な人物も存在する。それを浄化するための動きをユベントスなどは見せている。
完全なクリーンは絵空事と思う。
その試合で覚えていることと言えば、アウェー側スタンドに隔絶包囲され、90分間罵り続けられたことだけだ。
帰りは帰りで、やはり警察車両に前後を挟まれながら護送されると、真夜中の港にバスごと長時間足止めをくらった。船が出たのは深夜1時半を回っていた。
フェリーには法律で乗客全員分の浮き輪が必要らしかった。約1000人いたウルトラス全員分をフェリー会社は用意できず、結局救命道具なしで船は出た。もし沈んでいたら、大問題になっていただろう。
確かにイタリアは、他の4大リーグや北欧と比べてスタジアム近辺の暴力沙汰や犯罪が多いのは事実だろう。
ただし、ウルトラスの現場を少しだけ体験した者としては、そこに何千万という分母を持つヒトの社会がある限り、完全にクリーンな世界は絵空事だと思う。
性善説が、悪意を伴う既得権益に。
クラブとファンの関係の始まりも、きっと性善説に基づいていたはずだ。
サッカークラブがあって、人が集まって、応援組織ができる。
応援しますよ。ありがとう、見返りとして幾枚かチケットを都合しましょう。つまり、持ちつ持たれつ。
しかし、それは馴れ合いとともに悪意を伴う既得権益になった。ユベントスの折衝役が過去に「(大物選手入団セレモニーのような)イベントにはサクラが必要」と、彼らとの共依存を容認する発言をしたこともある。
人の頭数が揃えばそれは圧力団体になり、政治の票田という社会活動に繋がる。それは欧州社会の現実だ。
イタリア・サッカー界は、いわば“毒をもって毒を制す”を地でやってきた。そこに、ユーベが汚名をかぶりながら暴力断絶の一石を投じたのである。