セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
脅迫、暴行、報復上等の半グレ集団。
ウルトラスの実態を潜入記者が語る。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byUniphoto Press
posted2019/10/02 19:00
セリエAなどのゴール裏のサポーターには危険な人物も存在する。それを浄化するための動きをユベントスなどは見せている。
柳沢敦がメッシーナに加入した夏。
そこには、国中のマイナーカテゴリーでの試合で使われた傑作横断幕や応援風景が掲載されていて、彼らはそれを見て一喜一憂したり、交流(もしくは敵対)情報を仕入れたりしていた。
「発煙筒30本セットが○○ユーロ!」とかいった、火薬を扱う専門業者の広告もやたら目に付いた。もちろん違法に決まっている。
試合前やハーフタイムに、"ゴール裏の裏"で売り捌く自分たちのロゴ入りマフラーやパーカーといったアパレル商品が、彼らの有力な資金源の1つだった(請け負うのはだいたいナポリ郊外の業者だ)。
あれは、柳沢敦がメッシーナに入団した夏だった。
夏のプレシーズンマッチとして、レッジーナとの"海峡ダービー"が行われた。試合は海峡を渡ったシチリア島側のメッシーナで、夜に開催された。
夕方、僕は「ボーイズ」の面々と待ち合わせ、用意されていたバスに乗り込んだ。ウルトラスを載せたバス10数台が前後を警察車両に護送されてフェリーで海を渡った。
「待ち伏せだ!」襲撃されたバス。
島に上陸し、スタジアムまで移動する道すがら、突然何かがバス目がけて飛んできた。拳大の石やレンガ片だった。
「待ち伏せだ!」
誰かが叫んだ。バイパス沿いの住宅街や草むらにメッシーナのウルトラスが隠れていて、僕らのバスを襲撃してきたのだ。
真夏だったがエアコン装備などないバスで窓は全開だった。その窓や開閉装置が壊れて開きっぱなしになった昇降ドアから、石やレンガが音を立てて飛び込んでくる。ガン! ガン! と車内に当たり、ガラスの割れる音がした。
危ねえ! と身を伏せ、椅子の陰に身を隠した。辺りの様子を窺うと、仲間たちは車内の手すりや椅子の部品をひっぺがし、反撃を始めている。走行中のバスから!
何人かは強化アクリル板で囲まれた運転席を蹴り上げ、運転手に「スピードを上げろ!」と吼えていた。彼は怯えきった表情で必死にハンドルを握っていた。