セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
脅迫、暴行、報復上等の半グレ集団。
ウルトラスの実態を潜入記者が語る。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byUniphoto Press
posted2019/10/02 19:00
セリエAなどのゴール裏のサポーターには危険な人物も存在する。それを浄化するための動きをユベントスなどは見せている。
クリバリーに対する人種差別。
「CLのチケットを俺たちに200枚融通しろ。さもなきゃブッチのようになるぞ」
ラッファエッロ・ブッチとは前任者の名で、3年前に怪死を遂げている。
2017-18シーズン終盤、フラッグ要員25人分の無償チケット提供要求を拒否された「ドルギ」は、その報復行為として大一番のナポリ戦で相手DFクリバリーに対する人種差別チャントを繰り返した。その結果、ユベントスはゴール裏スタンド封鎖(=収入減)と罰金という実害を被っている。
インテルのウルトラス連合を牛耳っているのは、ヴィットリオ・ボイオッキという男だ。2000年に麻薬取引の罪で懲役30年の実刑を食らったものの減刑されて出所、今はサン・シーロの“クルバ・ノルド(北側ゴール裏スタンド)”に舞い戻っている。
“プロ・サポーター”はいらない。
端的に言えば、ウルトラスとはイタリア版“半グレ”と呼ぶべき反社会的勢力に他ならない。捜査後の会見でトリノ警察本部長は、告発に踏み切ったユベントスの勇気を称え、他のクラブも後に続いてほしいと切に強調した。
「我々は分岐点にいます。クラブはこれまでどおり、応援の見返りとして彼らを甘やかすことを続けるのか、それとも暴力との断絶を決めたユーベを模範とするか。ウルトラスの応援は(健全な)それではない。違法ビジネスの隠れ蓑にすぎない。クラブに寄生する“プロ・サポーター”はいらないのです」
レッジーナのウルトラス「ボーイズ」の本部は、薄暗い港の広場近くにあった。
そこは半地下のガレージで、階段を下りた先の入り口には鉄格子があり、部外者を堅く拒んでいた。いつも誰かしら見張りが立ち、メンバーでなければ中には入れない。
大小さまざまなフラッグとグッズが山積みされた内部には煙が充満していて、脛どころか顔面に切り傷の痕を持つ前科者だらけだった。
スマホもSNSもない頃だ。ウルトラスの世界には、ごく少数ながらA5判の業界専門誌というか写真投稿誌が出回っていた。