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釜石で起きたラグビーW杯の奇跡。
やっと味わえた「特別な空間」。
text by
金子達仁Tatsuhito Kaneko
photograph byGetty Images
posted2019/09/27 20:00
16年ぶりのW杯勝利を手にしたウルグアイ代表。釜石の地で大番狂わせを演じた。
特別なスタジアムでの大番狂わせ。
だからたぶん、たとえウルグアイが大方の予想通り大差の敗北を喫していたとしても、わたしは十分に満足して釜石の街を後にしていたと思う。ところが、ウルグアイは勝った。1年前は61点差で敗れた相手に、ラグビー史に残る大番狂わせをやってのけた。
今大会でももっともとんでもないことが、今大会でもっとも辺鄙で、もっとも小さく、しかしもっとも特別な意味を持つスタジアムで起きた。
世界のラグビーファンは、きっと、今大会の開幕戦が東京スタジアムで行なわれたことを忘れる。でも、フィジー人が打ちひしがれ、ウルグアイ人が涙した試合が津波に襲われた街、釜石という街で行なわれたことは忘れないだろう。
たくさんの、とてつもなくたくさんの人たちが、釜石に何が起こり、その後に誕生したスタジアムでどんな奇跡があったのかを、きっと、覚えていてくれる。
それだけで、ワールドカップを日本でやった意味はあった。釜石でやった意味はあった。
悔しいのは、大会後に……。
だから、悔しいし、惜しい。
日本がスコットランドと戦う10月13日、釜石鵜住居復興スタジアムではナミビア対カナダの一戦が行なわれる。行きたい。陸上トラックのあるスタジアムでの試合なんかほっぽりだして、この街でしか味わえない特別な空気をもう1度吸っておきたい……のだが、当然、編集部には却下された。いと悔し。
というか、もし時間のある方は、たとえチケットがなくても、10月13日にこの街を訪れることをお勧めしたい。絶対に行って損はない。世界中のどこへ行っても味わえないものが、あの街にはある。
だが、何といっても惜しいのは、ラグビー史上に残る番狂わせを生んだこのスタジアムは、ワールドカップ終了後、スタンドのかなりの部分が解体されてしまうということである。
もし、ジョホールバルのラルキン・スタジアムが解体されることになったら──わたしはきっと、心穏やかではいられない。