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釜石で起きたラグビーW杯の奇跡。
やっと味わえた「特別な空間」。
text by
金子達仁Tatsuhito Kaneko
photograph byGetty Images
posted2019/09/27 20:00
16年ぶりのW杯勝利を手にしたウルグアイ代表。釜石の地で大番狂わせを演じた。
好ゲームを見ても、何かが足りない。
先週の金曜日、日本とロシアの対決で幕を開けた今回のワールドカップは、すでにいくつかの好ゲームが生まれている。いや、目の肥えたラグビーファンであれば、ここまで行なわれたすべての試合で満足の行くポイントを感じ取っているのかもしれない。
だが、わたしの中には何ともいえないモヤモヤ感があった。
豊田ではジョージアの奮闘に胸打たれた。熊谷では中3日で試合に臨んだロシアに強いシンパシーを感じた。やっぱり専用競技場で見るラグビーは一味もふた味も違う、と改めて痛感もした。
それでも、何かが足りない、という気がしてならなかった。おまけに、その「何か」が何なのかが自分でもよくわからなかった。
期待していたのは非日常の空間。
ところが、答はガツンと降ってきた。盛岡からクルマで2時間ほどかけて到着し、市民センター前にある駐車場から一歩表に出た途端だった。唐突にモヤモヤの謎が解けた。
ラグビーのファンは、通は、ワールドカップに世界最高のラグビーの試合を期待しているのかもしれないが、わたしは違っていた。わたしが期待していたのは、ワールドカップでしか味わうことのできない、特別な雰囲気だった。
そう、非日常的な空間に身を置きたかったのだ。
これまでのところ、試合が行なわれるほとんどの会場は満員のお客さんで埋まり、選手たちは熱のこもったプレーを見せてくれている。だが、一歩スタジアムを出れば、あるいは電車に10分ほど乗ったところの駅で降りれば、そこにワールドカップの気配はない。
阪神が優勝した時の道頓堀のような、サッカー日本代表が勝った時の渋谷スクランブル交差点のような、あるいはディズニーランドに足を踏み入れた時に感じるような、特別な空間に身を置いているという感覚が、ほとんど味わえずにいるという不満――それがモヤモヤの原因だったのだ。