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大迫傑の腕振りは「水のように」。
米国人コーチが明かした指導と進化。
posted2019/09/14 19:00
text by
酒井政人Masato Sakai
photograph by
Masato Sakai
約2カ月前、大迫傑(ナイキ・オレゴン・プロジェクト)は日本のメディアの取材を受ける機会をつくった。私は、大迫がこれまで語ってきたこと、あえて語らなかったことの“答え合わせ”をするかのように彼のトレーニングを観察した。
ナイキ・オレゴン・プロジェクトはトレーニング内容などをシークレットにしているため、大迫に聞いても具体的なことは答えてくれない。ただし、「皆さんが思っているほど、特別なことはしていませんよ」と彼は以前話していた。
オレゴン州ポートランドの郊外、ビーバートンにあるナイキ本社とその周辺には、オールウエザーの400mトラック、芝生のフィールド、ウッドチップコース、クロカンコース、ウエイトトレーニング場などが完備。
素晴らしい環境が整っているが、大迫の言葉通り、米国で見たトレーニングのほとんどは、今となっては日本の実業団や大学でも取り入れているものだった。
「ケニアで練習をしたら……」
近年は大迫と一緒にトレーニングをしている日本人選手もいるし、ナイキ本社を拠点にしているバウワーマン・トラッククラブで武者修行をしている日本人選手もいる。もはや大迫だけが特別な環境でやっているわけではない。
大迫は世界のマラソンを席巻しているナイキの厚底レースシューズを履いて結果を残してきた。しかし、MGCでは最新モデルの「ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%」を男子出場選手の半数近くが着用する見込みで、彼だけの特別なギアではない。
それでも、大迫だけが一段と強い輝きを放っているように見える。それはなぜなのか? 「速く走りたい」という気持ちが誰よりも強いからだろう。
大迫はかつてこんなことを言っていた。
「たまたま米国に行きましたけど、ケニアで練習をしたらもっと強くなっていたかもしれない。どこで練習をするかではなく、自分がどうしたいかだと思いますよ」