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大迫傑の腕振りは「水のように」。
米国人コーチが明かした指導と進化。
text by
酒井政人Masato Sakai
photograph byMasato Sakai
posted2019/09/14 19:00
オレゴンで練習を積む大迫。日本記録保持者として挑むMGCでは大本命に推される。
複数の距離で日本記録を樹立。
大迫は2015年からナイキ・オレゴン・プロジェクトに正式加入すると、同年7月に5000mで13分08秒40の日本記録を樹立。日本選手権は2016年に5000mと1万mの2冠を達成。翌年は1万mで連覇を果たした。
そしてマラソンに挑戦後も順調にステップアップしていく。初マラソンとなった2017年4月のボストンは2時間10分28秒、同年12月の福岡国際は2時間7分19秒、翌年10月のシカゴは日本記録新記録となる2時間5分50秒を樹立した。
米国に渡り、4年以上の月日を過ごして、大迫は日本人ランナーの先頭を走ってきた。これは、現在では日本でも当たり前になりつつあるトレーニングを5年前から継続的に行い、今できることを確実にこなしてきた結果だろう。
学生時代と比べて、フォームに力みがなくなり、より洗練された印象を受ける。初マラソンとなったボストンの後、フォームが以前と違うことについて本人に質問すると、「何かを意識したことはなくて、単純に走る距離や本数が増えたので、効率の良いフォームに近づいてきたのかなと思います」と話していた。
腕の振り方を横から縦に。
しかし、今回の取材で大迫を専属的に指導してきたピート・ジュリアンは、トラックからマラソンに軸足を移すようになり、「腕振り」について細かく指導したことを明かした。それは大迫がチームに加入後、一番大きく変わった部分でもあるという。
「日本人選手は腕を低く伸ばして、横に振りながら走る傾向があります。コーナーを走るときは有効かもしれませんが、マラソンにとってはプラスになりません。腕はまっすぐ振る方が、水の流れのように前方向にスムーズに動くはずです。スグルの走り方は、とても効率良くなりましたよ」
言葉では伝わりにくいため、ジュリアンコーチは実際に大迫の肘をつかんで教えることもあったという。時には鏡の前で走らせるなど、徹底的に腕振りを教え込んだ。それだけでなくフォームの矯正は筋トレなどのワークアウトでも補った。