ファイターズ広報、記す。BACK NUMBER
ある会食で渡された一枚の戦闘服。
日本ハムの頂点には栗山監督がいる。
text by
高山通史Michifumi Takayama
photograph byKyodo News
posted2019/09/03 12:50
自力でのCS進出の可能性は消えたが、栗山監督は「ここからなので。全部勝てば何かが変わるだろう」と前を向く。
口にはしない栗山監督への思い。
今回の原稿は、栗山監督は「素晴らしい方だ」、「いい方だ」という、紹介ではない。
あくまで、こういう方であるということを、知ってもらえたら幸いである。押し付けがましいかもしれないが、興味がある方は、そこから想像を膨らませ、推察をし、栗山英樹監督という人物像を描く材料にしてほしい。
そこまで深く接点のなかった記者、広報に対してでさえ、このような所作である。
だからこそ、スタッフも皆、監督へ身も心も預けている。
選手たちは、さらに思いは強いのだと思う。それ故に、あえて口にはしない。
ある主力選手のインタビューに、広報として立ち会った。そこまでは雄弁かつ明快に、多岐に渡る質問に受け答えしていた。ある質問までは、淡々とやり取りをしていた。
印象的な場面が訪れる。「栗山監督について、どう思っていますか?」という問いを、振られた時だった。その選手は、しばし沈黙していた。栗山監督が就任してから主力に抜てきされたが、一時は外れ、それでも、どん底から上り詰めてきた。
その選手は、栗山監督に関する質問だけは答えなかった。その理由を切り出した。
「栗山監督に対しての思いとかは、僕は一切、何も言いません。そう決めています」
強烈な迫力で、遮った。質問者が、少したじろぐほどだった。
大谷も「ここで話すことではないです」
その時、記者時代の取材の一コマを思い出した。取材対象は、現在は大リーグ、エンゼルスの大谷翔平選手だった。同じように、ファイターズ入団時から「二刀流」を含めて手引きをした栗山監督への思いを、質問したのである。
大谷選手の目つきが険しくなり、一刀両断されたことを今でも鮮明に覚えている。たった、一言だった。こんなニュアンスの返答だった。
「今さら、ここで話すことではないです」
聞くのは野暮なのだろう。聞くまでもない、聞かれるまでもない。栗山監督に対する感謝、敬意など、メディアに、または人前で明かすことではない――。そう、悟ったのである。愚問だったのだろう。