月刊スポーツ新聞時評BACK NUMBER
スポーツ紙で見る奥川恭伸の熱投。
感動を呼んだ美談の説教と真相。
text by
プチ鹿島Petit Kashima
photograph byKyodo News
posted2019/08/24 08:00
17日の3回戦・智弁和歌山戦で完投した奥川。大会を通じて計512球を投じ、準決勝までの自責点は0と圧巻の活躍を見せた。
“差し入れ”に対して高野連は……。
気になるのは『右脚つっても』(東京中日)というくだり。
延長11回、奥川投手は暑さで右脚がつった。猛暑の甲子園。この試合を中継するNHKの画面には熱中症に注意する呼びかけがテロップでも同時に出ていた。なんともシュールな中継画面だったのだが、奥川投手にも暑さが襲ったのだ。
この様子を伝える各紙を読むと、あるエピソードがあったことを知る。奥川投手が足をつった直後の11回裏。
《熱中症防止に効果があるという漢方の錠剤を渡された。攻守交代時、智弁和歌山の黒川主将から「奥川に」と託されていた。》(日刊スポーツ)
相手の智弁和歌山から奥川に漢方の錠剤の差し入れがあったという。
この美談に『ライバルの心意気、友情…エンジン再点火には十分だった。昨今の球数制限の議論など超えた次元でのぶつかり合いがあった』(日刊スポーツ)、『試合中“敵から塩”』(スポーツ報知)と各紙沸き立ったが、私が注目したのはここ。
日本高野連の竹中事務局長は「試合中に渡したのはフェアプレーでたたえられること」と語りつつ、
《奥川選手はこれから世界に羽ばたいていく選手。アンチドーピングのこともあり、薬を安易に服用するのはよくない》(スポーツ報知8月18日)
カ、カテエ……。そもそも奥川投手は酷暑の甲子園でこういう事態になったのだが……。
「高校野球大会」を擬人化するなら「おじさん」。
スポーツ紙の「美談」に、高野連の「説教」。そして試合にドキドキしながらも涼しい部屋でテレビ観戦してる私のような視聴者の「気まずさ」。
高校野球には伝統と規律が醸し出すゆえの“最後の大ボケ感”がある。時として大ボケはダイナミズムを生む。だからこそツッコまれ、でも一方で愛される。
しかしさすがに最近は「大ボケ」「天然」を楽しんでいるだけじゃダメだよね、と皆が考えるようになってきた。
決勝前に休養日を設けることに関してサンスポのコラムが次のように書いていた。
《オールドファンには違和感もあるだろう。これも時代の流れで健康管理に世間の目も厳しくなった。休養日に続き「高校野球では邪道」といわれながらも昨年からタイブレークを導入。(略)異論はもう聞かれない。100回大会の昨年を境に少しずつでも変化が感じられる。》(「甘口辛口」8月22日)
高校野球はその名の通り高校生が主役だ。しかし高野連や主催新聞社などによる「高校野球大会」を擬人化するなら「おじさん」だと私は思う。しかも頭がカタいおじさん。
でも令和の時代、アップデートしていかなくてはいけないのは「おじさん」だ。高校野球が“少しずつでも変化が感じられる”のは良いことではないか。