野球善哉BACK NUMBER
強打・履正社が最後に見せた緻密さ。
奥川恭伸を崩した「大事なバント」。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2019/08/22 19:30
大阪勢としては2018年に続く夏制覇。大阪桐蔭の陰に隠れがちだった岡田龍生監督と履正社が、ついに高校野球の頂点に立った。
T-岡田、山田がいた時も緻密な野球。
もともと履正社は、「バントと守備と走塁」の質を高めた緻密な野球を標榜するチームだった。そのスタイルには理由がある。
現在、履正社は学校から20分の専用グラウンドで研鑽を重ねている。しかしかつては、校内のグラウンドを他の部活と共用していたのだ。
そのため、チームは「守備とバントと走塁」をメインにした野球を展開するしかなかった。
岡田は言う。
「甲子園初出場を果たすまではグラウンドを思うように使えませんでしたし、選手が打っても外野に張ってあるネットまでボールが届かないようなチームでした。当時はランナーを送って、相手のミスを待つ野球。守備を重視したというより、打つだけの練習をしても勝てないという想いがあったので、(得点の)確率が高いものを優先していました」
岡田が率いた履正社は、緻密さを売り物にする野球だった。のちにパ・リーグ本塁打王に輝くT-岡田がいた時も、3度のトリプルスリーを達成した山田哲人がいた時も、そして2度のセンバツ準優勝の時もそれは変わらなかった。
センバツ準優勝で監督が語ったこと。
だが、そうした岡田野球が、チームの戦術を偏らせていると感じる場面もあった。2014年のセンバツ決勝では、主軸にセーフティースクイズを命じて失敗するなど、細かい野球へのこだわりが裏目に出る形で敗れている。
それでも試合後、岡田はこのように話していた。
「もし今日ウチらしい試合ができたうえで負けていたら、強攻策に出るべきだったと反省すると思います。でも今日は、それができずに負けた。ウチらしい野球は、確率の高い野球。守備と走塁とバントの確率を上げること。この部分をしっかり仕上げていかないと、大事な試合では勝てないということです」