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子どもを“追い込まない”環境を!
ドイツサッカー界で進む育成改革。
posted2019/08/18 11:50
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph by
Uniphoto Press
「かつてはこうだった」
スポーツの世界であっても、一般的な社会においても、そんな枕詞でスタートする話をいろんなところで耳にする。日本だけではない。国外でもいたるところで、今とかつての時代を比較して、過去における実体験を絶対的な信頼として語りだす人が多くいる。ある意味でこれは自然なことだ。誰でも自身の経験はそれぞれにとって一番大事な判断基準なのだから。だが、だからと言って、すべてが最適なものだとは限らないはずなのだ。
私はドイツのカッセルで開催された国際コーチ会議の椅子に座ってメモを取りながら、そんなことをふと考えていた。
壇上ではドイツサッカー協会(DFB)の専任スタッフがドイツサッカーの現状について話をしていた。国際コーチ会議とはDFBとドイツプロコーチ連盟(BDFL)との共催で開かれるDFB公認A級とプロコーチライセンス(UEFA・S級)保持者対象のカンファレンスだ。毎年夏に3日間開催され、メインテーマに沿った形でDFB専任スタッフによる分析・発表、スポーツ学・心理学・脳科学教授らによる最新研究発表、ブンデスリーガや強豪アマチュアクラブ監督によるトレーニングデモンストレーションが行われる。
「とてつもない速さでアップデートを繰り返す」
私たち市井の指導者にとっては新しい知識と視点を得られるとても貴重な機会だ。話を聞きながら、デモンストレーションを見ながら、これまでと今、そして思い描く将来を結び付けるヒントを探す作業はとても楽しいものだ。
壇上のDFB各世代別代表主任ミヒャエル・シェーンバイツは、「ドイツサッカーはどのように将来に向けて取り組んでいくべきか」について、丁寧な説明をしていた。
「社会のあり方は時代とともに様々な変化を遂げてきている。技術の発展は世界をどんどん近づけ、これまでに知り得なかった情報を瞬時に手に入れることができる。あらゆることがとてつもない速さでアップデートを繰り返していく。そうしたなかで、今まで常識とされていたことが実は選手の健康を損ねていたという発見もたくさん出ている。サッカーとは技術や戦術、フィジカルやメンタルというものだけではない。サッカーそのものに対する考え方、そして育成ということに対するとらえ方においても同様に、新しい視点と解釈を持つことが重要になる」