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子どもを“追い込まない”環境を!
ドイツサッカー界で進む育成改革。
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byUniphoto Press
posted2019/08/18 11:50
ドイツは2018年ロシアワールドカップでグループリーグ敗退し、育成改革をさらに加速させている。
勝つことにしばられた指導者や両親。
12~15歳の子どもたちは、それまでとは違った価値観を持ちだす時期にある。大人の言うことに盲目的に従うのではなく、自分で見つけた新しい世界に興味を持つようになる。だからサッカー以外のことに興味を示し、そちらに移っていくことも珍しくない。でも、サッカーを好きなはずだった子がサッカーに幻滅して、あるいはサッカーに限界を感じて離れていくとなると話は違う。
ヒルテはスクリーンに映ったドイツ紙の見出しを見せた。
「子どもたちはサッカーを楽しんでいる。なのに、両親はプロ選手のようなプレーをさせたがる」
両親だけではない。指導者もそうだ。勝つことにしばられてしまっている。だから窮屈そうにプレーをする。そこにどこまで喜びがあるだろうか。笑顔でプレーしている子どもの顔がびくっとする。ドリブルをしたら足元からボールがこぼれて相手に取られてしまった。父親が怒鳴る。「何やってるんだ! ボールを取られてるじゃないか!」。委縮した子どもはミスを恐れてボールを離すようになる。パスを選択しているのではない。様々な試みは意図を忘れたら形骸化してしまう。何のために少人数制を導入したのか。何のために育成アカデミーの保持を義務化したのか。何のための指導者育成だったのか。
尋常ではないプレッシャーのなかでプレー。
ドイツすべてがそうではない。実直に慌てずに優れた仕事をしている地域もたくさんある。でも、こうした現場がまだまだあることもまた事実なのだ。
ヒルテは会場にいる指導者に尋ねた。
「いま、子どもたちは子どもたちらしくサッカーを楽しめているだろうか。練習は常に次の試合に向けての準備だけになっていないだろうか? 育成年代で勝ちにこだわりすぎていないだろうか? いや、こだわらせすぎていないだろうか?」
育成が大事だからと子どもたちを追い込むようなことをしてはいけないのだ。いまブンデスリーガの育成アカデミーにいる子どもたちはみんな、尋常ではないプレッシャーのなかでプレーをしている。モチベーションを保ち続けることが困難なほどに。