“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
昨年準V、U-20W杯の悔しさを糧に。
西川潤が夏を制して逞しくなった。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2019/08/06 08:00
エースとして桐光学園を初の日本一に導いた西川潤。試合後はリーグ戦、U-17W杯、そして選手権での活躍を誓った。
「整理」して迎えたインターハイ。
だが、インターハイの本大会に臨んだ彼はあの時とは大きく変わっていた。
「どんなコンディションでも自分がやるべきことを整理して、冷静に状況を見て、自分のコンディションに適したプレーを選択することを意識するようになりました。トップコンディションではない時こそ、自分が今、どれくらいのコンディションにいるのか。その状況の中で出せるものは何で、いかにそれをフルに出し切れるか。考え方ひとつでだいぶ見える世界やピッチ上で考えることが変わってきました」
サッカー選手だけでなく、スポーツ選手やいろんなジャンルにおいても「100%の力を出し切る」ということは美学となっている。だが、その100%の範囲を「ベストなコンディションの時の『100%』」と間違える人間が多いように感じる。そもそもコンディションは変動することは当たり前で、ずっとベストの状態で試合や仕事に臨めるのは、機械でもない限り無理な話だ。ひどい時には通常の力の半分を下回ることさえある。
「その時の」コンディションの最大値が「70%」なら「70%」を出し切ること、「40%」ならその「40%」を出し切ること、それこそが「試合に臨んでの100%のプレー」なのだ。だが、「その時の100%」ではなく、到底届かない「ベストの時の100%」を目指してしまうと、そこから理想と現実がどんどんかけ離れていく。それが葛藤や不安となり、パフォーマンスを落としてしまう人が多い。
まずは自分のコンディション、状況をきちんと理解して、把握した上で「その時のコンディションnでの100%」を出すアプローチをする。西川はそれを若くして重ねた経験の末、徐々に理解できるようになってきたのだった。
仲間の調子を見る余裕も生まれた。
インターハイが開幕し、どのチームも沖縄の強烈な日差しを浴びる炎天下でのプレーを強いられ、試合が進むごとにコンディションは落ちていった。だが、西川は2、3回戦こそノーゴールだったものの、1日の休養日を挟んで迎えた準々決勝からエンジン全開のプレーを見せるようになった。
準々決勝の西京戦で今大会初ゴールを含む2ゴールを叩き出すと、続く準決勝の京都橘戦では一進一退の激しい消耗戦の中で、自分の能力をゴール前でいかに発揮するかを考えた。周りの選手の動きだけでなく、どの選手が調子を上げているかもしっかりと見ながらゲームアプローチをしていた。
そして0−0で迎えた後半アディショナルタイム6分。ほぼラストプレーで西川が決定的なプレーを見せた。
左サイドでMF佐々木ムライヨセフが縦パスに抜け出したのを見て、ゴール前にスプリントすると、佐々木のマイナスの折り返しをこん身の左足ダイレクトシュート。ゴール右隅に突き刺して、チームを2年連続の決勝へ導いた。
そうして迎えた富山第一との決勝戦。
「この暑さで3連戦目ですから、正直きつかった。でも、だからこそ、自分のコンディションを理解して、任せるところと自分が行くところをしっかりと考えた。チームとして戦う意識をより強く持って臨めた」
冷静に自分を客観視し、ピッチでは常に周りの様子や戦況に気を配った。そして、消耗した状況で見せたラストプレーの冷静さ。初の全国優勝の栄誉の裏には、エースの精神的な成長があった。