“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
昨年準V、U-20W杯の悔しさを糧に。
西川潤が夏を制して逞しくなった。
posted2019/08/06 08:00
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph by
Takahito Ando
悲願の全国優勝を決めたゴールは、彼らしからぬ関わり方だった。だが、それは彼のエースとしての、チームの一員としての「進化」が見えたシーンだった。
インターハイ決勝、桐光学園vs.富山第一の一戦。
2年連続決勝進出となった桐光学園のエースストライカー・西川潤は、0−0で迎えた後半アディショナルタイムに左サイドでMF中村洸太がドリブルで仕掛けた瞬間、ボールを受けるべく中央左寄りの位置でDFを背負いながら、パスを呼び込んだ。
中村からの縦パスが届く前に、西川は首を振って周囲を確認。自分よりゴールに近い位置である後ろにFW庄司朗が、さらに近くにFW神田洸樹がフリーでいることを察知すると、中村の縦パスに対して、背負ったDFをパスコースから押し出す形で腰を入れた。相手DFはボールを奪うべく西川を押し出そうとするも、そのままボールは庄司の足元へとつながった。
西川は押し倒される形でその場に転がるが、庄司につながったボールは神田に渡され、その神田がドリブルで持ち込みゴール右隅に強烈なシュート突き刺した。そして、その瞬間に試合終了を告げるホイッスルが鳴り響いた。
あえて潰れた決勝ゴールのシーン。
西川はその場で仰向けになって空に向かってガッツポーズ。仲間に駆け寄る気力は残っていなかったが、得点につながる彼の自己犠牲はまさに渾身のラストプレーだった。
「これまでだったら強引にボールを受けて、自分で行こうとしていたと思う。でも、あのシーンは自分が受けるより、周りの選手がいいポジションにいたし、いいプレーをしてくれると思えたので潰れることを選択しました。しんどい時こそ、周りをよく見てベストな選択をする。あのシーンにはそれが現れていた」
試合後、彼はこう語って笑顔を見せた。
西川といえば、切れ味鋭いドリブルが武器だ。ファーストタッチから加速してスピードで切り裂くドリブルと、ターンから中へ入っていくドリブルが代名詞。あのシーンも受ける前はフリーで、一歩前に出て受ければターンできる状況であった。だが、彼はあえて潰れて仲間に託すプレーを選択した。
これは彼の中でのある気づきがもたらしたものだった。