草茂みベースボールの道白しBACK NUMBER
佐々木朗希登板回避に、闇営業騒動。
「危機管理」に必要なのは想像力だ。
posted2019/08/01 07:00
text by
小西斗真Toma Konishi
photograph by
Asami Enomoto
イチローよりはるか前に、国民栄誉賞を辞退した男がいる。
「ああ、あの話? ホンマやで。そこだけ取り上げられてるのはあるけど、言うたか言うてへんか言うたら、言うた(笑)」
カラカラと笑ったのは福本豊氏である。1983年、939盗塁の世界記録(当時)を更新し、中曽根康弘内閣から打診された。「あの話」というのは、辞退理由をマスコミに尋ねられ「そんなんもろたら立ちションもでけへんようになるやん」と語ったというエピソードである。
「同じ世界記録言うても、ワシは王さんとは違う。麻雀もやるし、飲んだら立ちションもしてた。国民の手本にはなられへん」と謹んで辞退したそうだ。
自分の「今」と受賞後の「未来」を想像した。
なぜこんな昔話を紹介したかというと、福本氏が名誉を辞退した理由が、権力への反骨心ではなく、想像力を駆使した結果だからである。福本氏は自分の「今」と受賞後の「未来」を想像した。「今」を変える自信がない。そうすると「未来」に「めんどくさいことになる」と考えたのである。受賞したばかりに息苦しくなる自分の人生。それはかなわんと回避(辞退)した行動を、後の世では「危機管理」と呼ぶようになった。
「令和の怪物」佐々木朗希投手(大船渡)が岩手大会決勝で敗退した。勝敗ではなく欠場したことが物議をかもしたのはご承知の通り。国保陽平監督の「故障を防ぐため」という判断であった。つまりは「故障」ではなかった。いかに「怪物」であってもプロスポーツではなく、あくまでも公立高校の部活動。学校と部を預かる監督、顧問の判断が全てである。
その上で筆者個人の意見を手短に書かせてもらうと、国保監督も佐々木選手もチームメートもOBや学校関係者も「甲子園に出られなくていい」と考えている人はいなかったはずだ。出たい。かといって酷使が許されるはずがない。