ひとりFBI ~Football Bureau of Investigation~BACK NUMBER
川崎vs.大分「食いつかせ名人」対決。
勝者が飲水タイムに選んだ次の一手。
text by
北條聡Satoshi Hojo
photograph byJ.LEAGUE
posted2019/07/31 07:00
“王者食い”を狙った大分の息の根を止めたのは百戦錬磨の「14番」だった。
「外側」で食いつかせる大分。
いかにも川崎Fらしい崩し方だが、すぐさまスコアを振り出しに戻す同点ゴールの手順も実に大分らしかった。後方(防壁の外側)で食いつかせて一気に裏へ。これで、まんまと獲物を釣り上げた。
自陣でルーズボールを拾った長谷川雄志からつないだパスは計19本。うち16本が自陣でのもので、ワンタッチパスはわずか2本だった。川崎Fとは対照的だ。
しかも、GK高木駿のパスが4本あった。この高木へのバックパスで食いつかせ、手前の長谷川に縦パス。これに食いついた田中碧を鋭い切り返しでかわすと、ライン裏へ走る藤本憲明の鼻先へループパスを落とす。これが18本目のパスだった。
失点直後に裏抜け上手の藤本を交代の切り札として送った片野坂和宏監督の采配が的中した格好。そして、敵陣を深々と破った藤本のマイナスの折り返しをオナイウ阿道がワンタッチでゴール左に流し込んだ。
一瞬の隙を見逃さない中村憲剛。
しかし、大分の反撃もここまでだった。
川崎Fが懐深く守り、いっさい食いつかなくなったからだ。結果、大分は肝心の狙い目(ライン裏のスペース)を失った。
「相手が(プレスに)あまり来なくなってから、あちらのペースになってしまった」
高木がそう振り返る。川崎Fが食いついてこないぶん、後方でのパス回しは楽になったが、そこに落とし穴が潜んでいた。オナイウのバックパスが乱れ、前田凌佑と鈴木義宜の動きが一瞬、止まる。その隙を見逃さなかったのが百戦錬磨の中村だった。
「食いつくのを止めてからも、ずっと狙っていた。後ろでパスをつなぎ続けるのは大変だし、毎試合どこかでミスが起きていた」
巧みに体を入れてボールをさらうと、すかさず前方を走る小林悠へラストパス。鋭い切り返しで鈴木をかわすや否や、左足でボールをすくい、高木の肩口を抜いてみせた。
抜く手――いや、抜く足も見せぬ早業。まさにエース小林の真骨頂だった。前半に小林のシュートを再三、好セーブでしのいできた高木も、これにはなす術がなかった。