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川崎vs.大分「食いつかせ名人」対決。
勝者が飲水タイムに選んだ次の一手。
posted2019/07/31 07:00
text by
北條聡Satoshi Hojo
photograph by
J.LEAGUE
食いつくか、食いつかないか。
その微妙な判断が勝負の分かれ目だった。先週末に等々力で開催された川崎フロンターレと大分トリニータの一戦(第20節)だ。
巧妙に餌(パスワーク)に食いつかせて、獲物(ゴール)を釣り上げる。
川崎Fと大分はこの道のエキスパートだ。守備側の眼前にさらされる「エサ」は食えそうで、食えない。両軍の誇るパスワークはそんな微妙なさじ加減に妙味がある。
ただ、川崎Fは果敢に食いついた。
鬼木達監督は「我々は、やはり行く立場。チャレンジしました」と振り返る。3連覇を狙うJ1王者の肩書きはもちろん、前のめりのプレスに軸足をおき、首位を走るFC東京を仕留めたばかりでもあった。
「だから(食いに)行こうよ、という気概があった」とは中村憲剛の弁だ。しかし、その狙いが見事にすかされ、大分にペースを握られる。相手の土俵に乗っかった格好だ。
「内側」で食いつかせる川崎F。
転機は28分の飲水タイムだった。
深追いを自重し、食いつくポイントを後ろに下げる修正を施す。空転が続く「オレ流」に固執せず、傷口を広げなかったことが勝機をたぐり寄せる伏線となった。
相手ボールには食いつかず、マイボールにどう食いつかせるか。
30分以降、両軍のテーマはほぼその一点に絞られていく。違いは「どこで」食いつかせるか。敵の防壁の「内側」で食いつかせるのが川崎Fのお家芸。それこそ、51分の先制点がそうだった。
大分のクリアを拾ったジェジエウからつないだパスは計18本。うち12本が敵陣(防壁の中)でのものだ。しかも、約半数の8本が精密なワンタッチパス。守備者が食いついても容易に取れない仕掛けがそこにあった。
最後の仕上げも中央の分厚い包囲網をかいくぐるワンタッチパスの連続だ。中村憲剛→下田北斗とていねいにつなぎ、左から中央へ潜り込んだ齋藤学が見事に仕留めた。マークの受け渡しが順番にずれて壁が崩壊していく様は、まるでドミノ倒しのようだった。