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村田諒太を支える「親父と息子」。
居場所はボクシング、逃げ場は……。
posted2019/07/31 11:30
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Tsutomu Takasu
インタビュー後記として読んでいただきたい。
心に引っ掛かっていた。
ロブ・ブラントにリベンジを果たした衝撃の夜から数日後、Numberのインタビューで村田諒太に会った。心も言葉もどこか弾んでいるようにはどうしても思えなかった。
昨年10月にラスベガスで大差の判定負けに終わり、奪われたWBAのベルトを2回TKOで取り戻した。負けたら引退を決断していたはず。重いプレッシャーを乗り越えた分だけ、心は軽くなるもの。達成感だってある。破顔一笑? あれあれ? それがどこにもない。
ブラントを倒したリング上ではマイクを向けられて「ホンマはアレでしょ? 2ラウンドでバテて、3ラウンド崩れるところを見たかったんでしょ。そうならなくて良かったです」とファンの笑いを誘って過去にないくらい高揚している村田がいた。
しかし弾んだ最高地点はここだった。試合後の囲み会見では既に落ち着いていたし、今回のインタビューはさらに心穏やかだった。本誌に記した原稿のトーンも、彼に引っ張られるかのように勝手にたかぶっていた感情を抑えながらパソコンのキーボードを叩いた。
その答えを探すべく、過去彼から聞いて文字にしてきたものをもう一度読み直してみた。
前回の負けも、今回の勝ちも。
今年1月にインタビューした際の言葉に、目が留まった。
「親父とこの前、話をして思ったことがあるんですよ。人間って“区切り”をつけたがるじゃないですか。因果ってまさにそう。(10月のブラント戦の調整で)風邪を引いたからどうとかありましたけど、一つひとつ区切っていったらキリがないと思うんです。そこにはもっと長いストーリーがあって、すべてつながっている。人間は因果をつけたがるけど、実はそんなことないんじゃないかなって。運命論になってしまうと頑張る気をなくすところがあるかもしれない。でもそうじゃない。マイナスと思わず、その先のストーリーをモチベーションとするいいムチになるんじゃないか、と」
現役続行を表明していたものの、リマッチが決まるのは3カ月先の話。戦うモチベーションを構築するために苦悩しているようにも見えた。
区切らなくていい。ショートレンジの因果に捕らわれ過ぎず、過去も現在も精いっぱいやって先にあるはずのボクサーとしての集大成に向かっていく。前回の負けも今回の勝ちも、過去からつながっていて、さらに言えば未来にもつながっている。その区切りを取っ払っていると思えば、弾まない村田諒太にも納得がいった。