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村田諒太を支える「親父と息子」。
居場所はボクシング、逃げ場は……。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTsutomu Takasu
posted2019/07/31 11:30
ロブ・ブラントにリベンジを果たした直後こそ感情を高ぶらせていたが、試合後の取材では落ち着きを取り戻していた。
自分の記憶と息子への愛情。
5年前、「ベストファーザー」に贈られるイエローリボン賞を受賞した後のインタビューで、村田に子供に対する愛情について尋ねたことがあった。
「子供に対する愛情って、自分の記憶なんだなって思うんです。最近それを強く感じる出来事があったんですよ。3歳の晴道は、どこ行くときも“抱っこして”とせがむんです。この前も公園で遊んで帰るとき、こっちの手でストライダー(子供用ペダルなし二輪車)を持っているから“抱っこできないよ”と言っても“もう歩けないから”ってしゃがみ込む。仕方ないなと思って晴道とストライダーを抱えて帰るわけですけど、嫌だなっていう気持ちには不思議とならない。
“あっ、俺も父親によく抱っこをせがんでたな”っていう記憶があって、父親は泣きじゃくる俺をよく抱っこしてくれていたんです。子供に接することで親父から愛されてたんだなって思える。だから俺もしてあげよって自然となるんですよね」
村田が息子に向ける笑み。
だが、オチをつけたがるのはやはり関西人気質によるものか。話には続きがあった。
「僕、泳ぎが得意だったので、海に行くと父親がポンポン放り投げてくれたらしいんですよ。でも1回溺れかけて、親父が助けてくれた。そこから命の恩人やとおもってたんですけど、物心ついたときに“あのとき殺しかけたのは親父やぞ”という考え方に変わりました(笑)。
晴道にプールで同じようなことをやっていたら、ズボーンとプールの下に入っていっちゃって。急いで救い出したら、“パパありがとう”みたいな顔をしてくれるんですけど、将来的には“殺しかけたな”ってなるでしょうね(笑)」
その優しそうな同じ笑みを、誠二さんは諒太少年に向けていたに違いない。