“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
黒川淳史はライバル加入も大歓迎。
ステップアップではなく水戸でJ1へ。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2019/07/27 08:00
今季4ゴールをマークする水戸MF黒川淳史。同学年の小川航基らの加入は「焦り」よりも「期待」を抱いているようだ。
「サイドではなく、中央」
この過程で彼は自分自身をシビアに客観視することができた。自分との対話を繰り返した結果、彼の周囲に発する発言の質が上がり、プレー面でも自分の特徴とチーム戦術をしっかりとリンクさせながらピッチ上で表現できるようになった。
そして、今年はよりプロフェッショナルに磨きをかけるべく、彼はさらに自分と対話を続けた。
「去年はどちらかというと、自分の中で初々しさがあった。公式戦に出続けることに慣れていなかったので、すべてが新鮮だったし、がむしゃらにプレーすることができた。同時にコンディションやモチベーションを維持することの大切さも学んで、パーソナルトレーナー以外にも栄養士をつけて、食事面でもケアをするようにしました。すべての国のリーグの体重の平均や、自分の身長に対する適正体重を出してもらったのですが、その最低限のラインが自分の現状からプラス3キロ必要でした。
なので、キャンプを通じて身体を動かしながら徐々に体重を増やして、今はその適性体重を維持しています。これをやったことで今年は当たって倒される、倒れるプレーが減りました。
もう1つは、やっぱり自分が一番力を発揮できるのはサイドではなく、中央だと思ったので、そこを強化部の人に伝えました。サイドはスプリントという長所を出せますが、僕の長所は真ん中でのプレーで、ゴール前に入っていったり、バイタルエリアでスルーパスを出したり、1.5列目から走ってスルーパスを受けるプレーがしっくりくる。そういうプレーも評価してくれていたので、今季は真ん中でプレーできるようになったことも、自分の中で大きな出来事でした」
プレーの幅が大きく広がった黒川。
結果、彼のプレーの質はさらに向上した。ゴールに向かってより直線的なプレーができるようになったのだ。
ユース時代から相手DFの視野から消える動きを得意としていたが、無駄なアクションが多く、ファーストタッチの時点で相手を振り切ることができないシーンもあった。だが、フィジカルが強化され、かつ身体的な能力が向上したことで、身体を常にゴール方向に向けながら一瞬の動き出しの速さと加速力を駆使し、ファーストタッチで相手の前に出てプレーできるようになった。
優位な状況でもともと持っていた前への引き出しを効果的に発揮することで、前線でのプレーの幅は大きく広がった。
意識の変化も、好調も、そして停滞も、水戸というクラブに貴重な経験を積ませてもらい、かつ意思を尊重してもらった上で生じたことだからこそ、全責任を自分自身に向けることができた。