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<特別対談 後編>
室屋義秀(パイロット)×小山宙哉(漫画家)
「『新しさ』への挑戦は続く」
text by
別府響(文藝春秋)Hibiki Beppu
photograph byTadashi Shirasawa
posted2019/08/18 11:00
ロケットの打ち上げを見た時の感動。
室屋 そういえば実はウチのおじいさん、種子島出身なんですよ。それもあって小さいころは夏休みに種子島に毎年行っていて。だから本物のロケットの打ち上げを何回か見たことがあるんですよね。島には宇宙の博物館とかもあって、毎日10kmくらい自転車漕いで見に行っていました。ロケットの打ち上げを見た時の感動はいまでも覚えていますね。火の玉が飛んでいって、すごく迫力があった。
小山 まぶしいですよね、打ち上げの瞬間。
室屋 だんだんロケットが見えなくなって、火の玉だけが見える。小学生だったけど夜中に1人で見に行っていましたよ。打ち上げの失敗も何回か見ましたね。ポッと光っただけで終わっちゃったこともあったなぁ。
小山 そういう経験もあったんですね。本当に漫画的な体験だなぁ。失敗といえば、室屋さんは事故がない、という話を聞いています。『宇宙兄弟』では月面で失敗が起こりまくっているんですが(笑)、どうしたら事故なく競技ができるのですか?
室屋 月面だとまた地球上とは違って状況が難しいですよね(笑)。でも、たしかに作品を読んでいて飛行機と「似ているな」と思う部分もあります。例えば作中では、確かに事故は起こっていますけど、完全にミッションが失敗してしまう「破局」には至っていないじゃないですか。あれって、セーフティネットを何段階も張っているからこそ、助かっているというふうに僕は読んでいるんです。アクシデントは環境の変化とかで、どうしても多少は起きる。あとはそれが「破局」にいたるかどうかなんだと思うんです。
危険回避のために策を講じておくことが重要。
小山 アクシデントを大きな事故につなげないようにすることが重要なんですね。
室屋 飛行機では事故には3段階あると言われていて、1段目の枠、2段目の枠を超えて、3つの要因が一気に来ると「破局」になるとよく言われています。破局の前の「インシデント」といわれる状態というのは、我々ももちろんあります。でも、その状態でいかに破局させないかが大切。飛行機というのは必ずそういう風に設計がされているわけです。
例えば急に天候が悪くなれば、これは1個の大きな要因に成り得ます。でも、それを大事にしないために計器があったりいろんな補助システムがあったりする。ところがそこでパイロットの技量がないと状況がさらに悪くなって、最後にさらにもう1つ、エンジンが止まるとか、そういうことがあると破局にいたる。
だからこそ、常にある意味でネガティブ人間というか「これが壊れたら」「あれが壊れたら」という風に悪い想定をいっぱいしておくんです。宇宙開発とか月に行くとか、そういうものも同じ感じだと思います。あれこれ壊れるし、太陽フレアが出たり、いろんなことが起こります。でも結構な防御網が何段階もあるから、何とかなっている。そういうことだと思います。