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<特別対談 後編>
室屋義秀(パイロット)×小山宙哉(漫画家)
「『新しさ』への挑戦は続く」
posted2019/08/18 11:00
text by
別府響(文藝春秋)Hibiki Beppu
photograph by
Tadashi Shirasawa
人はいつだって、「そら」に憧れる。
自分たちの力だけでは手の届かない、遠い場所だからこそ、その美しさや不思議さに多くの人が思いを馳せるのだ。
航空機パイロットとして、いくつものショーやレースで活躍してきた室屋義秀と、現在「モーニング」で宇宙飛行士たちの生き様を描いた『宇宙兄弟』を連載中の漫画家・小山宙哉。彼らもそんな「そら」に魅せられた人間のひとりだ。
ジャンルは違えど、地上から遠く離れた世界を舞台にして活躍する彼らが目指すものとは、一体何なのだろうか。
対談の後編は、2人が続ける新しいものへの「挑戦」と、これからの未来について語ります。
室屋義秀Yoshihide Muroya
1973年1月27日生まれ。3次元モータースポーツ・シリーズ「レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ」でアジア人初の年間総合優勝を果たす。日本国内ではエアロバティック(曲技飛行)の啓蒙の一環として、全国各地でエアショーを実施するなど活躍。
小山宙哉Chuya Koyama
1978年9月30日、京都府生まれ。美術系の学校を卒業後、デザイン会社勤務を経て漫画家デビュー。「ジジジイ」で第14回MANGA OPEN審査員賞を受賞。2007年より「モーニング」で『宇宙兄弟』を連載開始。単行本は累計発行部数1900万部を越える超人気作に。既刊35巻、以下続刊。
小山 漫画の場合は常に、過去の作品で描いていないものを描かないといけないというのが大変ですね。セリフにしても他の作品で言われていることを言ってもしょうがないので、毎回新しい「気付き」をできるだけ作りたい。でも、それが難しい。
室屋 新しいものへの挑戦はなかなか大変ですよね。我々も過去にある技へのちょっとした上乗せなんですけど、テクノロジーの進化やテクニックの向上も含めて、何か新しいことができないかと考えていて。「もう進化なんかできないんじゃないか」と言われることもあるんですけど、世界中でそういうことを考えている人が大会とかで集まると「うわ、こんなことがまだできたのか」という技が出たりする。そうするととても面白いですよね。無理と思われているところを超えて、ブレイクスルーがあると、面白味がありますね。
小山 飛行中に「こんなことあるんだ」みたいな新しい気付きを感じる経験も有りますか?
室屋 やっぱり技を見せるときでも「こうはできないだろう」という部分を、いろいろ計算して考えていくと「あれ、できるかもしれない」という風になって試せることもある。もちろん、なかなかうまくいかないですよ。スピードとか、タイミングとかいろんなものが合わないと上手くいかないんですけど、でもそういうものがスパッと入った瞬間というのは、面白いですよね。
小山 ちなみに飛行中に回転している時は上下や左右は分かるものなんですか。
室屋 最初は分らなかったんですけど訓練を重ねて段々慣れてきて、いまはわかりますね。新しい技とかをやると、ポーンと思わぬ方向に回ったりして、一瞬「アレッ」という時は有りますけど。どこかで地面を目が探しています。ショーの演出でぐるぐる急回転とかもありますからね。
小山 そこはトレーニングの賜物なんですね。