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男子マラソン3強の1人、井上大仁。
ボストンの教訓は「コース研究」。
text by
西本武司(EKIDEN News)Takeshi Nishimoto
photograph byEKIDEN News
posted2019/06/01 17:00
4月のボストンマラソンで2時間11分53秒、12位でゴールした井上大仁。
スタートと同時に飛び出したが。
レース前日にジョグから帰ってきた井上に話を聞くと、これまでになく穏やかな気持ちで迎えていると話をしていた。
練習拠点の長崎で強風や坂道への対策をじっくり積めたこと、仕掛けどころは心臓破りの丘であること、そしてレリサ・デシサ(エチオピア)、ゼルセナイ・タデッセ(エリトリア)という、フルマラソン2時間切りを目指した「NIKE BREAKING2」に参加した2人と一緒に走れることを楽しみにしていると語った。
レース当日の朝、起きると暴風雨が吹き荒れていたが、スタート直前に雨はやんだ。昨年、川内優輝の優勝を呼び込んだような悪天候ではない。スタート前の流しをする井上に声をかけると、笑顔でこちらに手をあげて応えてくれた。
スタートと同時に先頭に飛び出したのはなんと井上だった。筆者は坂を下っていく選手を見届けたあと、急いでバスに乗り、ゴールへ向かった。序盤は井上と川内の2人が先頭から飛び出し、昨年の再来を一瞬期待させたが、プロへの移行や結婚など走ること以外でも多忙だった川内は、昨年ほどの力を見せることなく後退してしまう。
一方、井上は30kmまで先頭集団についていたが、そこでレースが動き、徐々に先頭から離され始める。35km通過時は20秒くらいだった差が40kmでは2分にまで広がってしまう。
レースの行方はフィニッシュライン手前100mからのラストスパートを制したケニアのローレンス・チェロノが2時間7分57秒で優勝(2位のレリサ・デシサとは2秒差)した。
フィニッシュラインに向かう最後の直線に井上は11位で姿を現すが、後ろから迫ってきたランナーと競り合う余力はなくゴール直前でかわされ2時間11分53秒、12位でゴールした。
「自分はまだまだ」と再認識できた。
目標タイムも順位もクリアできなかった。だが、井上からは悔しさよりも今後の自分に対する「素直な期待」があふれていた。
「アジア大会で優勝して『いけるんじゃないか?』と周囲には思われていたけど、『自分はまだまだだ』と再認識できたことがボストンの収穫です。
ロンドン世界陸上のときとは違い、精神的にも余裕がありましたし、周りもしっかり見えたのでペースメーカーがいなくても、レースの流れには乗れるようなった。勝負にはからむことができなかったけど、この2年で着実にステップアップできていることを実感しましたね。
例えば、世界陸上は15kmでいっぱいいっぱいでしたが、今回は30kmからじわじわときつくなっていった。トップ選手に真正面からぶつかって弾き返されたことで、世界と戦う上で基準となるハードルを強く意識できた。もっと脚を作らないとMGCでも終盤の坂は登れないですね。
それにレリサ選手たちと走るというのは本当に光栄なことで、これからはああいうトップ選手たちともっともっと走って、強くなりたい。MGCやオリンピックも大事だけれど、ああいう選手とぶつかり合っていきながら、自分の力をもっと高めていきたいですね。もしかしたら、自分のやりたいマラソンはこういう感じなのかな」