Jをめぐる冒険BACK NUMBER
誤審騒動で埋もれるのが惜しすぎる。
川崎vs.名古屋はJ史上屈指の名勝負。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byGetty Images
posted2019/05/20 17:30
Jリーグには、世界に堂々と発信したいサッカーがある。川崎フロンターレと名古屋グランパスはそんな勝負を見せてくれたのだ。
「あ、ヨネ気づいてた?」とニヤリ。
その言葉を中村に伝えると、ニヤリと笑った。
「あ、ヨネ、気づいてた? そのとおり。ヨネはまだ、シミッチほど違いは作り出せないからね。今は、まだね」
このとき、中村が「まだ」を繰り返したのは、彼なりの米本へのリスペクトだろう。中村も気づいているのだ。今季、名古屋に加入した米本が、ものすごい勢いでうまくなっているということに。
こんな感じでミックスゾーンまで楽しいのも、この試合が名勝負だった証だろう。
ふだんクールな谷口彰悟は「差を見せつけられなくて残念。次、アウェーでやるときは、ボコボコにしてやりますよ(笑)」と冗談めかした口調で、本音をのぞかせた。
格の違いを見せつけた大島は、取材陣がごった返すミックスゾーンでも狭いスペースを見つけ、誰にも捕まらず、鮮やかに通り抜けていった(お見事!)。
引き分けでよかった、と思うほど。
ボールタッチが少しでも乱れると、すぐに捕まるせめぎ合いのなかで、しかし、ゴールを破ったのが、緻密な崩しではなく、マテウスのスーパーボレーと、レアンドロ・ダミアンの強烈なシュートだったのは、サッカーの矛盾であり、真理でもあり、面白さ。
1-1という結果に対して、選手たちの捉え方は「この結果は妥当かな」(谷口)、「ダミアンが負傷したことを考えれば、1-1で我慢できてよかった」(登里享平/川崎)、「最低限の結果だったと思います」(米本)、「勝てたかもしれないけど、これが今の実力」(丸山)など、さまざまだった。
個人的には、引き分けでよかった、という感想だ。何を甘いことを、と叱られるかもしれないが、この好ゲームで敗者を出したくないというか、決着は次の対戦まで取っておきたいというか……。
そのとき、名古屋がどれだけ進化しているか。
家長昭博や小林悠らを欠いていた川崎は、次こそ圧倒的な差を見せつけられるか。
物語の続きがとにかく楽しみだ。