Jをめぐる冒険BACK NUMBER
誤審騒動で埋もれるのが惜しすぎる。
川崎vs.名古屋はJ史上屈指の名勝負。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byGetty Images
posted2019/05/20 17:30
Jリーグには、世界に堂々と発信したいサッカーがある。川崎フロンターレと名古屋グランパスはそんな勝負を見せてくれたのだ。
名古屋の選手から漲る「自信」。
試合が始まってまず印象に残ったのは、名古屋の選手たちから漲る「自信」だ。
丸山祐市を中心とした名古屋の守備陣は、これでもかというくらいディフェンスラインを押し上げ、自分たちの枠組みの中に川崎を閉じ込めようとした。そして、ジョアン・シミッチの左足を起点にしたパスワークに全員がしっかり関与し、前進していく。
そこに、J1王者の前で足がすくみ、腰の引けた戦いに終始した昨年9月の臆病者の姿は、まるでなかった。
一方、個人的にこの試合のハイライトは29分、川崎のパスワークだ。
いや、ゴールに繋がったわけでも、名古屋の守備陣をズタズタにしたわけでもない。それでも記憶に残しておきたい名シーンだった。
その中心にいたのは、ボランチの大島僚太だ。
自陣で味方DFからのパスを受けた大島が相手のタックルを鮮やかにかわして味方にパス。ちょっと動いてリターンを受けて、今度はふたりを引きつけておいてボールをはたき、再びボールを預かる。
その間、大島は少しも焦ることがなく、トラップが乱れることもない。
右サイドバックにスパンとパスを通したかと思えば、今度は相手4人の真ん中でパスを受け、包囲する名古屋の選手に飛び込む隙すら与えない。最後、まんまと逆サイドにボールを逃すことに成功すると、スタンドから「おお~」というどよめきが起きた。
米本が気づいていた憲剛の動き。
一方、トップ下の中村は、名古屋のセンターバック、サイドバック、サイドハーフ、ボランチの中間でふらふらしながら、名古屋の守備陣を牽制した。
「思い切ってディフェンスラインを押し上げないと憲剛さんをフリーにしてしまう。嫌らしかったですね」と振り返ったのは、名古屋のセンターバック、中谷進之介である。
さらに中村は、名古屋のコントロールタワー、ジョアン・シミッチの前に立ちはだかった。まるでパートナーである米本拓司のことは、気にとめていないかのように――。
こうした中村の狙いについて、気づいていた人物がいた。
ほかでもない米本である。
「憲剛さんがやたらジョアンに行っていて。あれはたぶん、俺には持たせていい、っていう感じだったと思うんですよ、狙いとしては。だから試合中、そう思われているんだろうなって。悔しいっすね」