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「あの時の齋藤学」を遠く離れて。
左からドリブル、だけじゃない姿を。
posted2019/05/17 07:00
text by
いしかわごうGo Ishikawa
photograph by
Getty Images
今を生きるフットボーラーにとって、幻影に縛られることほど苦しいものはない。
だが、そこに向き合い、乗り越えることで新しい自分を確立しようとしている選手もいる。
川崎フロンターレの齋藤学だ。
左サイドエリアから仕掛けて行く、鋭いカットイン。
緩急をつけながら瞬間的にギアを上げて相手を抜き去る、縦の加速力。
小刻みなタッチでボールを運びながら、対面した相手の重心の逆を突いて突破していくドリブル技術は彼の代名詞だ。今季の等々力競技場でも、試合終盤に左サイドで彼がボールを持って1対1を仕掛け始めると、ひときわ大きな歓声が上がっている。周囲もその姿を求めがちだ。
ただ最近の齋藤学は、スタイルが少しだけ変わり始めている。左サイドではなく、右サイドでもプレーに「違い」を生み出し始めているのである。そしてピッチでの表情が明るい。試合中の本人が楽しそうなのだ。
一体、彼の中でどんな変化が生まれ始めているのか。
好調・川崎の中で連続スタメン。
ここのところ、川崎フロンターレは好調だ。直近のリーグ戦である第11節・清水エスパルス戦も4-0と大勝した。リーグ戦に限ればクラブとしては10年ぶりの、鬼木体制では初めてとなる5連勝を飾っている。
齋藤学は、公式戦ここ5試合連続でスタメン出場。第9節のヴィッセル神戸戦こそ89分にベンチに下がっているが、それ以外の4試合はフルタイム出場である。
今季最初のフル出場を果たしたのが、4月23日のACL・蔚山現代戦だ。試合は2-2で終わったが、左サイドで好プレーを見せ、AFCのマン・オブ・ザ・マッチに選出された。フル出場の機会から遠ざかっていた齋藤にとって、この試合の意味は大きく、その後のターニングポイントにもつながった。
蔚山戦後の週末に行われた神戸戦の試合前日、右サイドハーフで先発予定だった脇坂泰斗が負傷した影響で、齋藤に連続スタメンの機会が巡ってきたのである。
ただし、ポジションは脇坂が入るはずだった右サイド。主戦場としていた左サイドとは真逆のエリアだ。縦関係を形成する右サイドバック・馬渡和彰との連携も、ぶっつけ本番に近い状態だった。