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聖地アンフィールドに凱歌は響くか。
リバプールOBが語る涙の歴史秘話。 

text by

井川洋一

井川洋一Yoichi Igawa

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photograph byGetty Images

posted2019/05/12 09:00

聖地アンフィールドに凱歌は響くか。リバプールOBが語る涙の歴史秘話。<Number Web> photograph by Getty Images

サラー、フィルミーノらのタレントはもちろんだが、リバプール最大の魅力と言えば、やはりアンフィールドの熱なのだ。

リバプールの熱が維持される理由。

 それにしても、リバプールの聖地はなぜこれほどまでの熱量を、ずっと維持できるのだろうか。

 産業革命後に港湾都市として栄えたかの地には、北欧などから様々な文化が持ち込まれ、ごった煮のシチューを意味する「スカウス」がスカウサーの語源になったという。同時に、集まった労働者や船乗りたちの気質が、気取らない素直な人々のルーツにあるとも。そしてビートルズを生み出したように、音楽や文化に寛容な気風もある。

 筆者は昨年12月に当地を訪れ、ナポリ戦の前にアンフィールドにほど近いカフェで、伝説の名将ビル・シャンクリーの名が冠されたパイを食べた。1926年創業のベーカリーには、赤いシャツを着た多くのファンが試合前の腹ごしらえに訪れ、隣に座った初老の夫婦から気さくに話しかけられた。

 付近で生まれ育ったというジーンとデニスは、何十年も聖地に通い続けているが、ある時、不安になったことがあるという。

「スアレスとスティービー(ジェラード)が去った後、アンフィールドに人を惹きつけるものがなくなってしまうような気がした」と夫のデニスは言う。

「でもクロップが来てくれたおかげで、スタジアムでまた情熱が感じられるようになったんだ」

クロップのヘビーメタルが響く街。

 プレミア史上2人目のドイツ人指揮官が、二大エースを失くしたアンフィールドを再燃させた。確かにこの気取らない街と現監督は、最高の組み合わせに思える。レッズファンもクロップ監督もよく笑い、よく怒り、時には人前で泣いたりもする。ビートルズを生み出した街は、マージービートはもちろん、クロップの奏でるジャーマン・ヘビーメタルでも感情を露わにする。

 人々を魅了してやまない指揮官のもとにタレントが集まり、隙のない陣容が出来上がった。かつてはワールドクラスの選手が入っては抜けていったが、今のレッズを離れたがる者はいないだろう。彼らがひとつになって、攻守に死力を尽くす姿は中立的なファンのハートさえも掴んで離さない。

 カップ戦で準優勝の多いチームと監督には、6月のマドリードで昨年のキエフでの雪辱を果たしてもらいたいし、プレミアにおけるシティとの極上のデッドヒートも面白い。そのどちらか、あるいは両方で勝者になったとき、街にはきっとあの名曲がいつにもまして響き渡るのだろう。

(Number977号『リバプール 聖地が待ちわびるヘビーメタルの凱歌』より。取材協力:Sergio Levinsky / Ondrej Zlamal / Piotr Kozminski)

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