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聖地アンフィールドに凱歌は響くか。
リバプールOBが語る涙の歴史秘話。
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byGetty Images
posted2019/05/12 09:00
サラー、フィルミーノらのタレントはもちろんだが、リバプール最大の魅力と言えば、やはりアンフィールドの熱なのだ。
ジェラードを襲ったあの悲劇。
ところが――。2週間後のチェルシーとのホームゲームで、別の悲劇が起きてしまうのだ。
前半終了間際に、最終ラインの中央に下りたジェラードへDFママドゥ・サコが横パスを出す。インサイドキックの練習のような極めてシンプルなボールを受ける際、あろうことか、リバプールの象徴だった背番号8がスリップ。それを掠めたデンバ・バに先制点を献上してしまった。
リーグ制覇を長年夢見ていた主将が必死に追いすがり、ネットに収まったボールを拾う姿はプレミア史に残る残酷なシーンだった。悪夢のような敗北の直後には引き分けもあり、彼らは最後の4試合を全勝したシティに勝ち点2差の2位に。シーズンが終わると、年間最優秀選手に選ばれたスアレスはバルセロナへ去っていった。
今年4月のホームでのチェルシー戦では、やはりこの件が論点となったが、クロップ監督は「その話をする価値はない。あれから長すぎる時間が経ったのだ」と一蹴。実際に試合でもジョーダン・ヘンダーソンのクロスをサディオ・マネが頭で決め、モハメド・サラーの凄まじいゴールが続いた。
「頭が真っ白になるほど感動的なミドルだった」と指揮官が表現した一撃は、あの悪夢を払拭するに十分だった。5年前と相手、会場、スコアも同じながら、試合後の空気はもちろん真逆。クロップ監督は「これでスリップの話を終えられる」と語った。
昨季CL決勝ではカリウスが……。
もっとも試合前から指揮官は、現チームのモチベーションの源は「昨季最後の試合で経験した嫌なこと」にあると言っていた。キエフで行われたCL決勝のことだ。
昨年5月、ウクライナの首都でレッズに足りないものが明らかになった。セルヒオ・ラモスにサラーが負傷退場させられたあとの後半、GKロリス・カリウスが掴んだボールを味方に渡そうとしたところ、カリム・ベンゼマの伸ばした足に当たり失点。終盤には、ギャレス・ベイルの正面へのミドルを防ぎきれずに3点目を喫し、勝負が決まった。以前からトップレベルのGKの必要性は論じられていたが、不安は至高の舞台で最悪の形となって顕在化してしまった。
今季開幕前にアリソンを獲得し、その問題は解消されたように見える。
念願を成就させるためのラストピースが揃ったともいえる。思えば最後に欧州を制した'05年のイスタンブールでも、主役のひとりはGKだった。チームが前半に3失点を喫しながら後半の6分間で追いついた後、イェジ・ドゥデクは延長後半にアンドリー・シェフチェンコの頭と足の至近距離弾を連続で防ぎ、PK戦でも活躍。風神を想起させる瞬発力と特異な動きを武器に。