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ベリンジャーとイエリッチ。
MLBの歴史に残る打撃レースに?
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byAFLO
posted2019/05/11 09:00
4月29日、ピッツバーグ・パイレーツ戦でソロ・ホームランを放つドジャースのコーディ・ベリンジャー。
ベリンジャーとイエリッチ。
そんななか、ナ・リーグではふたりの若い左打者が眼を奪うスタートを切って、早くもMVP候補に名乗りを挙げている。
コーディ・ベリンジャー(ドジャース。23歳)とクリスチャン・イエリッチ(ブルワーズ。27歳)だ。
ベリンジャーは、打率=4割1分2厘、出塁率=4割8分6厘、長打率=8割4分、本塁打=14、打点=38という圧倒的な水準を維持している。
イエリッチも負けていない。現在の数字は.346/.450/.804で、本塁打は15、打点が36。いまのところ、ベリンジャーがやや優勢だが、昨年ナ・リーグMVPに輝いたイエリッチはピークに差しかかりそうな年齢だ。先の長さを思うと、身体の強さや安定感では、むしろ彼が上かもしれない。
レジェンドを連想させる打撃レース。
それにしても、まだ5月に入ったばかりとはいえ、ベリンジャーの数字は、野球史を振り返らせる力を持っている。
反射的に思い浮かぶのは、2002年のバリー・ボンズだ。ステロイドを使用していたことは事実だが、あの年のボンズは.370/.582/.799(OPS=1.381)という数字を残した。わけても眼を惹くのは、年間198個という異様な数の四球だ。前年に73本塁打を打ったあとで('02年は46本)、相手投手にまともに勝負してもらえなかったためだが('04年にはさらに増えて年間232四球)、今季のベリンジャーには、ここから出塁率を1割ほど下げた数字が目安になるのではないか。本塁打も50本の大台超えを狙えそうだ。
一方、イエリッチのモデルケースとしては、'57年のミッキー・マントルが思い浮かぶ。この年のマントルは.365/.512/.665の並びで、34本塁打を放ち、146個の四球を選んだ。3割6分5厘の打率は彼のキャリアハイだが、この年はテッド・ウィリアムズ(3割8分8厘)に阻まれ、首位打者を逸している。本塁打数でいえば、イエリッチも50本台を狙えるのではないか。
そんなわけで、ベリンジャーとイエリッチの打撃レースは、もしかすると「歴史的な対決」という様相を帯びてくるかもしれない。両者とも、たんなるパワーヒッターや安打製造機ではなく、総合力にすぐれた打者だけに期待はつのる。となると、避けてもらいたいのは、疲労と故障だ。健康なシーズンさえ送ることができれば、8月ごろには、両者の三冠王争いという声が聞こえてくる可能性もある。