話が終わったらボールを蹴ろうBACK NUMBER
大久保嘉人はまだ終わっていない。
今季“0点”でも笑顔でプレーする理由。
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byJ.LEAGUE
posted2019/04/09 11:00
6月で37歳となるが、今も闘争心の旺盛さは健在。大久保嘉人はゴールと勝利のために牙を研ぎ続ける。
下がってボールを受ける大久保。
今シーズンも川崎時代のようにゴールを奪うことに専念ができない。
湘南戦はセンターFWにアダイウトンを置いたが、もともとワントップの選手ではない。川又堅碁が負傷離脱中で致し方ない部分はあるが、ボールが収まらないので攻撃がハマらない。この日は前から攻めてくる湘南相手にカウンターを狙っていたが、それも前になかなか繋がらない。
攻め手が見つからない中、業を煮やしたシャドーの大久保が下がってきてボールを持ち、時間を作り、組み立てる。周囲の選手は、安心したかのようにようやく動き出す。
もちろんゴールを狙っていないわけではない。
サイドからの崩しになれば、スルスルとボックス内にポジションを取る。ボールが来ればシュートを打てるという絶好のポジションにもいる。しかし、なかなかボールが出てこない。味方がミスしてボールを奪われると自陣まで戻り、必死になって体をぶつけ、足を絡めて取り返そうとする。
2-0で湘南に勝った後、服部年宏強化本部長はボソッとつぶやいた。
「嘉人が、いちばん存在感あるわ」
点を取った選手ではなく、服部はあえて大久保の名前を挙げた。
存在感――。
なんとなく耳あたりのいい言葉だが、それが逆に点取り屋としての“大久保嘉人”を稀薄にしている。本来は、大久保が点を取ることがチームの勝利のために必要なことであり、求められていることだ。
だが、チームはフィニッシュの前の段階で四苦八苦している。
今の磐田は「行き当たりばったり」。
「うちは、まだ連動してプレーできていないんですよ。自分がボールを持っている時にうしろから出てくる選手が少ないでしょ。それにイメージが共有できていない。
例えばぺナルティエリアの前まで運んで、自分が打てそうやなって思うと周囲を見ず、ただボカーンと打ってしまう。そこで周囲を見て、俺らに回せばもっと可能性が広がるっていうのが見えてないのか、考えていないのか……。ゴールする確率を求めていない。ようするに行き当たりばったり。それじゃ分厚い攻撃はできんよね」
大久保は、くたびれた口調でそう語る。