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マンUを再建しうる最高の観察眼。
スールシャール、母国での修行秘話。
text by
ヨーナス・ヤーベルJonas Giaever
photograph byGetty Images
posted2019/04/06 17:30
オールド・トラッフォードで指揮を執るスールシャール監督。ユナイテッド復権はかつてのスーパーサブに託された。
ファーガソンの教えをメモして。
2006年からモルデに在籍する36歳のウイング、マティアス・モストロムは当時のことを次のように述懐する。
「僕らにとって、スールシャールの到来は衝撃的だった。当然、彼のユナイテッドでの功績はよく知っていたからね。同じように、そのトレーニングにも驚かされたよ。当時のノルウェーでは、ドリロ・フットボールがまだまだ幅を利かせていたのだが、彼は常にボールを使う練習をした」
ノルウェーで最も偉大なアスリートのひとりであるレジェンドが、飾らない性格の持ち主であることも、就任初日に知れたとモストロムは語る。
「彼が温かい心を持ったフレンドリーな人だということは、すぐにわかったよ。選手はもちろん、調理士や事務スタッフ、ボールボーイまで、誰とでも同じように気さくに話すんだ。でもただ優しいだけでなく、良くないところがあれば、はっきりと指摘した。それから、監督の決断を必ず説明してくれたところもよかったね。試合のメンバーに入らなかった選手にはその理由を明かし、わだかまりを残さないようにしていた」
その多くは新米監督が恩師ファーガソンから学んだものだ。実際、スールシャールは現役時代の晩年からサー・アレックスのトレーニング内容をメモに書き留め、リザーブチームの監督になってからはプレミアリーグの試合前のミーティングに同席させてもらっていたという。すべては自身の指導者としての将来のために。
スーパーサブとしての洞察力。
また現役時代のスールシャールのことを“スーパーサブ”として記憶している人も多いはずだが、それは彼の鋭い洞察力によるところがある。
ベンチに座っている時にピッチ上の事象をしかと認識し、出番がくれば、突くべきところを突いて流れを変える。それが最高の形で現れたのが、1998-99シーズンのチャンピオンズリーグ決勝だ。あらためて説明する必要はないかもしれないが、あのバイエルンとのファイナルで最後の最後に逆転ゴールを決めたのが、途中出場したスールシャールだった。
限られた時間で結果を残せる稀有な能力こそ、彼が“ベビーフェイスの暗殺者”のニックネームで呼ばれた所以だ。ただ本人によると、それもまたファーガソン流のやり方だったはずだという。あえて自分を先発にしないことで、モチベーションを刺激していたのだろう、と。