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欧州サッカーを戦うための新常識。
敏腕ディレクターが強豪をつくる。
text by
粕谷秀樹Hideki Kasuya
photograph byUniphoto Press
posted2019/03/26 11:00
グアルディオラ監督(右)を支えるチキ・ベギリスタインディレクター(左)。シティの強さはフロントの実力でもある。
時代に取り残されるプレミア勢……。
アーセナル同様、マンチェスター・ユナイテッドとチェルシーも有能なディレクターを雇用する必要がある。この2チームの強化担当は甘い、素人。ド素人。前者のエドワード・ウッドワード、後者のマリアナ・グラノフスカヤともに交渉術を持っていないため、エージェントに足もとを見られるケースも少なくない。シティやリバプールと異なり、移籍の失敗例が多いことでも強化部門のレベルがうかがい知れる。
4年前、アウクスブルクからアブドゥル・ラーマン・ババ(現スタッド・ドゥ・ランス)を獲得したとき、チェルシーのジョゼ・モウリーニョ監督(当時)は皮肉を交えてこういった。
「ラーマンという選手はよく知らない。フロントが取ったのだから、彼らに聞いてくれ。いい選手だとありがたい」
ディレクターという役職ではなかったものの、ユナイテッドもチェルシーもピーター・ケニオンという凄腕CEOが強化で重責を担っていた当時は、市場で後れを取ることはなかった。
ユナイテッドではクリスティアーノ・ロナウド(現ユベントス)やリオ・ファーディナンド(現解説者)、ファン・セバスティアン・ベロン(現エストゥディアンテス会長)などの補強に尽力した。チェルシーではマイケル・エッシェン(現サバイル・アゼルバイジャン)、ミヒャエル・バラック(現解説者)、アシュリー・コール(現ダービー)といった実力者を次々に獲得し、絶対の力を見せつけていた。
昨年夏、ユナイテッドはアトレティコ・マドリーのディレクターを務めるアンドレア・ベルタ招聘に動いたが、けんもほろろに拒否されたという。交渉の窓口は、あのウッドワードである。
観察力、交渉術に長けた人材。
フットボールを取り巻く環境が大きく変わり、市場の競争力も激しくなったいま、監督がすべてを取り仕切る時代は終わりを告げた。クラブの上層部、監督、ディレクターが一枚岩となって人選を進め、ときに即戦力を、ときに先行投資として無名の若手を獲得していくシステムがトレンドだ。
当然、選手のポテンシャルを見抜く鋭い観察力、メディアへの対応を含めた優れた交渉術を有する人員を確保しなければならない。各クラブ間で、有能なディレクターを巡る綱引きが始まる。