プレミアリーグの時間BACK NUMBER
イングランドの二重国籍選手問題。
20歳ライスは裏切り者ではない。
posted2019/03/27 10:00
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph by
Uniphoto Press
デル・アリ、トレント・アレクサンダー・アーノルド、ジェイドン・サンチョ、ジェイムズ・タルコウスキ、カラム・ハドソン・オドイ。3月後半の代表ウィークに招集されたメンバーを見たとき、サッカーに興味のない人はイングランド代表だと思わないかもしれない。
だが、実はイングランドらしい招集リストでもある。
ロンドンを首都とする英国は、歴史を通して移民を受け入れ、今でも国民における人種の多様化が進む世界的な多民族国家である。必然的に、世代が移り変わるに連れて複数国籍を持つ国民の数も増えてきた。冒頭で列挙した平均年齢21歳の5名も、それぞれナイジェリア、アメリカ、トリニダード・トバゴ、ポーランド、ガーナの代表選手になることも可能だった顔ぶれだ。
サンチョやハドソン・オドイのような2000年代生まれの次世代もすでに現れ、代表チームの「選択肢」を有する選手が更に増える状況は想像に難くない。
それだけに、実際に代表を“選択した”選手を国家の裏切り者のように非難する声には、首を傾げてしまう。最新例が、この半年ほど代表チーム変更の是非が騒がれた、デクラン・ライスの決断に関する世間の反応だ。
プレミア有望株の選択。
ウェールズやアイルランドに多い「ライス」という苗字は、英語圏の人々には異国情緒が薄いだろうが、ウェストハム所属の20歳は、昨年3月にアイルランド代表としてデビューした後にイングランド代表を選択したことで、「異端」という目で見られることになった。
ライスが代表国を思案中と伝えられたのは、イングランド代表監督のガレス・サウスゲイトのコンタクトを経て、当時のアイルランド代表監督マーティン・オニールが代表招集を見送った際。その時点でさえ、元アイルランド代表MFのケビン・キルバーンが、「国際ランク150位に落ちて2度と予選突破が不可能になったとしても、一員であることを“考える”必要があるようなヤツが代表にいるよりはマシだ」とまで非難した。
元イングランド代表の中にも、「監督からの勧誘など待たずに、心の中で代表チームが決まっているべきだ」とツイートした、ギャリー・ネビルのような識者もいた。そして今年2月、渦中のライスがイングランドを選択すると、「許されるべきではない」とする意見があちこちで聞かれた。