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大坂なおみの成長とサーシャ“卒業”。
成熟度で変化するコーチとの関係性。
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byGetty Images
posted2019/03/06 17:30
新コーチ・ジェンキンスのもと、さらなる成長を誓う大坂。今後の飛躍に期待したい。
ハンドルは選手、コーチは助手席。
サーシャは女子ツアーが選ぶ2018年の最優秀コーチであり、大坂はコンディショニングを担当するアブドゥル・シラーが感心するような「良い生徒」だ。だが、選手とコーチの関係性は、選手の成熟度によって変わっていくのものである。
コーチの語源は「乗合馬車」であり、選手を目的地に確実に送り届けるのがその仕事だ。選手が駆け出しなら、コーチは寄り添いながら選手を先導し、目的地に向かう。だが、選手が成長すれば、ハンドルを握るのは選手自身で、コーチは助手席でナビゲーターに徹する。
さらに選手が成長すれば、助手席のコーチは不要となり、ルートの選び方も運転もすべて選手任せ、コーチはピットインの際に助言するくらい。コーチ主導から選手主導へと関係性が大きく転換する。
筆者はコーチと選手の関係性について、伊達公子を指導したことでも知られる元フェドカップ日本代表監督の小浦猛志氏から詳細に話を伺ったことがある。上の記述は、小浦氏の理論をもとに筆者がアレンジしたものである。
大坂の急激な成長こそ、摩擦の原因か。
大坂は極めて短い時間で成熟の階段を上り、結果と自信を得て、今は1人で運転席に座る。その成長速度が、サーシャの想定よりかなり早かったのかもしれない。
自分で問題を解決することは2人の理想だったが、大坂には自分1人でできることが急に増え、にもかかわらず、コーチは以前のまま保護者のように接していた――とすれば、両者の間に摩擦が起きても不思議ではない。
大坂が自立を強く望めば望むほど、サーシャのアドバイスにも「自分で解決できるのに」と思うことが増えただろう。あたかも親子関係で過干渉が問題になるように、大坂にストレスが芽生えたとは考えられないか。